2005年03月08日

「万物理論」

万物理論
グレッグ・イーガン 山岸 真

東京創元社 2004-10-28
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ハード SF の旗手、グレッグ・イーガンの新作。巷では既刊の「宇宙消失」「順列都市」に続くに「主観宇宙三部作」の最終作と言われているらしい。しかしまあ「万物理論」ときましたか。

肝心の内容はというと、まずは小説の冒頭部で語られるイーガンお得意の哲学的、科学的な談義が面白い。特に、完全な自閉症になることを望む部分自閉症患者を語る下りや、自らの肉体をひとつの生物的な要塞に変えてしまった男の逸話などは、一見どうやっても理解しがたい主張のように見えるが、その奥には実に深い洞察を秘めているように思える。人間性とはなんなのか。生きるとは。また「汎性」「転男性・転女性」「微化男性・微化女性」などの造語とともに複雑なジェンダーのあり方も描かれ、性のアイデンティティーに関する様々な現実的問題も提起される。

また、冒頭部分では肝心の「万物理論」がまったく登場せず、主人公(科学ジャーナリスト)の取材した「フランケンサイエンス」の実例とともに未来社会の有様を描き出すことを中心に物語が進んでいくのだけど、これが今から 10 年前に書かれたとは思えないほど説得力に満ちた描写で、これだけでも驚嘆に値する。こういう近未来に実現されると思われる単純なテクノロジー談義だけではなく、それを拠り所とした人間のメンタリティの変化まで描かせたらこの人は天下一だろう。

ただそれ以降の「万物理論」が登場したあたりからどうにも散漫な印象。「万物理論」自体も、それにまつわる展開も驚くべきことばかりなのだが、あまりにメッセージを強調しすぎているせいか、胡散臭いというか押し付けがましいというか。ラストの人間宇宙がどうのというのも理解できなくは無いのだけれど、それと人間の精神やアイデンティティーがどう結びつくのかといわれると、今一つ納得し難いような。たしかに今までのイーガン作品にだってある意味「ぶっ飛んだ」展開はたくさんあったけれど、それを読者に納得させるだけのパワーがあったと思うのだ。しかし今回はそれがどうにも希薄。まあ単に私が理解していないだけなのかもしれないけれど。

Posted by hamada at 2005年03月08日 23:39 | TrackBack
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