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「せちやん 星を聴く人」

2007.01.25 23:25 CST [ 読書感想 ]

せちやん 星を聴く人せちやん 星を聴く人
川端 裕人

講談社 2006-10-14
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ここ数年、お気に入りの作家の川端裕人の中編小説。先日の中国行脚の旅で読了。

主人公の中学時代に、三人の仲間と学校の裏山で見つけた不思議な研究所「摂知庵」。そこに住む一人の中年男性。彼は宇宙からやって来る電磁波を自作のパラボラアンテナで受信、解析し、地球外生命体の発見を夢見ていた。まるで世捨て人か仙人のような生活を送る彼の元に、学校の帰りに足しげく通うようになった三人は、やがて「摂知庵」にある膨大な書物やレコード、楽器、コンピュータをはじめとした計測機器に魅せられ、それぞれに夢中になるものを見つける。ひとりはヴァイオリンに、ひとりは詩に、そして主人公はコンピュータサイエンスと天文学に。

タイトルの「せちやん」とは、「摂知庵」に住む謎の男のあだ名である(もちろん SETI をもじっている)。本家 SETI から比べると桁違いに精度の悪いアンテナと計測機器で、結果として単なるノイズを日がな一日聴いている。語り手である主人公は、彼のやっていることはほとんど意味がないということに気づく。主人公は「摂知庵」で夢中になったコンピュータサイエンスの知識と、生来のビジネスマンとしての資質を生かし、ビジネスの世界で大成功を収める。たまにふらりと現れ、研究データを解析して欲しいと願う「せちやん」に対して、懐かしさとともに憐憫の情も抱いてしまう。しかしある失敗により金も地位も名誉も家族も、自分がこれまで築き上げてきた全てを失う。失意のうちに届く「せちやん」からの手紙。その手紙を読んだ彼は、すでに無駄だと半ば思いながら、「せちやん」と同じ事を始める。そうして彼自身が「せちやん」になるのだった。

著者のこれまでの作品は、最新のテクノロジとサイエンスを綿密に取材し、それらを元に痛快かつ明快に物語を紡ぐフィクションであることが多かった。しかしこの「せちやん」はそれらから一歩踏み込んで、テクノロジとサイエンスをもってしても変えることの出来ない「人としてのあり方」を深く静かに、また痛切に描き出している。前者のような作風も好きだが、今回のようにサイエンスを元ネタにしつつも、さらに人心の微妙な機微を丁寧に書き綴った作品もまた実に味わい深い。

それにしても本作を読んで思うのは、人類は(今のところ)宇宙にただ独りだけある存在であり、それぞれの個人としてもどうしようもなく孤独であり、それでも何ものかに結びつきを求め、それ故に星を想いその声を聴かずにはおけないのかも。なんてえことを考えてみたり。

投稿者 hamada : 2007.01.25 23:25 CST

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