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「沈黙のフライバイ」

2007.07.17 23:29 CST [ 読書感想 ]

沈黙のフライバイ沈黙のフライバイ
野尻 抱介

早川書房 2007-02
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「ロケットガール」シリーズですっかりメジャーになった(のか?)野尻抱介の SF 短編集。

本作の表題作「沈黙のフライバイ」では、SF の基本テーマである異星人との邂逅が描かれている。「異星人コンタクトもの」というと、たとえば映画だと「エイリアン」や「インディペンデンス・デイ」、「宇宙大戦争」あたり、本では「星を継ぐもの」に「竜の卵」、そのものずばり「コンタクト」とかそのあたりか。これらの異星人たちの特徴的なのは、彼らが恐ろしい怪物であったり圧倒的な科学力で地球を侵略しようとしたり、あるいはやたらと友好的だったり妙に馴れ馴れしかったりと、良しにつけ悪しきにつけとにかく人類にちょっかいを出してくる存在だということである。もちろんストーリーの展開上、彼らが人類に手を出してくれなければ、ほとんどが単なる宇宙観光旅行になってしまい(そういうジャンルもそれはそれで面白いけど)、先に挙げた作品の基本コンセプトがガラガラと崩れてしまう。

ところでめでたく異星文明と邂と逅果たした時、一体どうするか。今も宇宙空間を飛び続けているパイオニアやボイジャーに異星文明に宛てたプレートやレコード盤が搭載されているのは有名な話だが、普通の人類の感覚でいえば、とりあえず挨拶ぐらいするのではないか。こんにちは。私はこれこれこういうもので、宇宙のこんなところから来ました。あなた方はどなたですか。良かったら少しお話ししませんか。ちょっと遠いですけれど。

しかし本作の「沈黙のフライバイ」や長編「太陽の簒奪者」など、野尻 SF に出てくる異星人たちは、これが見事に何もしないのである。いや現在の人類の科学力を遙かに凌駕したスーパーサイエンスを駆使して途轍もないことを人類に見せつけはするのだけど、人類に対しては直接的には特に何もしない。なんてそっけない、と思うのはこちらの身勝手であって、なにせあちらは異国の人ならぬ異星の生物である。なんだか得体が知れない。しかしよく考えれば異星人というのは、きっとそういうものではないか。皆が皆、破壊と侵略に猛け狂うモンスターや馴れ馴れしい友好の徒であれば、よっぽどわかりやすい。この「得体の知れなさ」を描くことでは、作者ほど巧みな人を私は知らない。

この表題作の他、2001 年の NEAR シューメーカー探査機が小惑星に落下した時の作者の体験記と、その後の未来が工作してリアリティ倍増の「轍の先にあるもの」、火星へ向かう二組の宇宙飛行士夫婦の決断を描いた「片道切符」、太陽光を使い、植物のように光合成・分解をするスーツが開発されることからストーリーが始まる「ゆりかごから墓場まで」、工学系女子大学生が考えたとんでもないアイディアが、正に風呂敷と蜘蛛の糸となって宇宙へとつながっていく「大風呂敷と蜘蛛の糸」と、収録されているその他の短編も SF らしいワンダーが溢れている。SF と言っても難解な用語や数式が出てくる類のものではないので、誰でも気軽に読めるはず。

投稿者 hamada : 2007.07.17 23:29 CST

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