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Archive: 読書感想

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「生物と無生物のあいだ」

2008.03.05 23:31 CST

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
福岡 伸一

講談社 2007-05-18
売り上げランキング : 85
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昨年あちこちで話題になり、すでに大ベストセラーとなっている本作だが、相変わらず流行に疎い私は今頃読了。

生物の遺伝子構造や成り立ちを初めて知ったのは、高校生の時に読んだ某科学雑誌だった。衝撃であった。こんなにも多様で複雑な構造と機能を持っている生物であるのに、それを作り出す元になっているのは、たった四つの塩基であるという事実。それらが順列的に組み合わされることで生成されるタンパク質が、生命活動の全てを担っているという厳格でシンプルな解。そしてそれらを記述する二本の紐が相補的に絡まり合い、まるで輪舞曲を踊っているかのように描く二重らせんの構造美。震えがくるほど感動したものである。

本書は第一線の分子生物学の著者が、DNA 発見の歴史の舞台裏を紹介しながら、自身の研究テーマである膵臓の消化酵素タンパク質分泌の仕組みを通して、生物とは一体何か、生物と無生物を分かつものはなんなのかを問いかけるもの。

著者はその答えとして「動的平衡」という概念を提唱するのだが、それ自体も実に興味深いながら、本書に出てくる分子生物学の考え方が面白い。動的平衡という考え方は本来的には生命科学の話なのだろうけれど、むしろ人間社会を見る視点のようにも思える。特に遺伝子ノックアウトが補完されるところの記述なぞは、もう社会システムそのものの記述だと言われても疑問に思わない気がする。

本来はおそろしく専門的なネタではあるが、先人達の逸話(野口英世や量子物理学者のシュレーディンガー、二重らせん構造を発見したワトソンとクリックなどが登場する)と筆者の研究人生を織り込みつつ書かれていることで、分子生物学の知識がなくても十分にわかりやすく興味を失わずに読める。難しいことを難しく話すのは簡単だが、誰にでも理解できるように話すのは非常に高度なテクニックと才能を必要とする。しっとりと語り掛けるような静かな話術とロマンチックな詩的表現、終盤に出てくる研究の進展と共に徐々に高まる期待感とその結論、その後に続くエピローグの淡々とした語り口は、優れた理学書にとどまらず、第一級の文学作品と言っても過言ではない。売れている本というのは、やはり理由がある。

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「ウニバーサル・スタジオ」

2008.03.04 20:04 CST

ウニバーサル・スタジオ (ハヤカワ文庫 JA キ 6-8)ウニバーサル・スタジオ (ハヤカワ文庫 JA キ 6-8)
北野 勇作

早川書房 2007-08
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舞台は近未来の大阪。ここにウニバーサルスタジオという、アミューズメントパークがある。もちろんこれは実際に大阪にある某施設のもじりというかダジャレである。このそもそもの設定に始まり、現実の大阪の街並みや文化、大阪に生きる人たちの特徴を適度にフィードバックしつつ、ダジャレやパロディ、シチュエーションコメディを交え、正に大阪的コテコテさで表現したのが本作である。

本作には明確な主人公がいない。ウニの形をかたどったウニバーサルスタジオというアミューズメントパークを舞台に、内部の観光案内やスタッフの談話が入る一方で、ケンタッキーフライドチキンでおなじみのカーネル・サンダースがテロリストとして活躍していたり、大阪の中心部の梅田では泥沼の中でカエル型テロリスト(カエルを擬態しているからケロリストという)とヒトとの戦いが描かれていたり、まるでエヴァンゲリオンのような巨大生物兵器として道頓堀のグリコの巨大ランナーが動いたりと、施設の中と外での出来事をただひたすら説明していくだけである。

そして終盤に提示される問いかけ。結局のところ、誰と誰が何のために戦っているのか。そもそウニバーサル・スタジオとはなんなのか。それに何より、この世界は本当に存在しているのか。ダジャレやパロディ満載で一見陽気にみえつつも、正に地に足が着いていないようなそこはかとない不気味さが本書のミソか。

著者の過去の作品にもあった、断片的な物語を徐々に紡いでいくことで全体として成り立たせていく重層構造的な手法と、関西独特の感覚を読み取って理解できないと、なかなかこの作品は楽しめないのではないかと思われる。前者とはともかく、私はベタベタなダジャレや大阪的な濃い文化も嫌いじゃないのでなんとかついていけたが、やはり万人向きとはとても言えない気がする。それと両生類全般が生理的にダメ、という人も読むのはきついかもしれない。

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「ブラックペアン1988」

2007.11.14 23:27 CST

ブラックペアン1988ブラックペアン1988
海堂 尊

講談社 2007-09-21
売り上げランキング : 2476
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「チーム・バチスタの栄光」、「ナイチンゲールの沈黙」、「ジェネラルルージュの凱旋」に続く、「東城大学医学部付属病院」を舞台にした作品の最新刊。舞台はおなじみの病院なれど、時代は遙かにさかのぼって約二十年前の 1988 年。三作品の主人公である田口医師がまだ医学生で、病院長の高階医師がアメリカ帰りのビッグマウス講師という頃の話。

相変わらず漫画のキャラクタのような誇張気味に性格設定された医師達が活躍する様子は、まるでどこかのライトノベルのような雰囲気ではある。しかしそこは著者が現役の医師だけあって、手術現場の克明な描写や医師同士の確執、医者や病院と製薬メーカとの癒着など、第一線のプロが描き出す迫力とリアリティは、凡百のライト小説とは一線を画す。

物語はアメリカ帰りで新進気鋭の高階医師と、食道癌の権威で「ゴッドハンド」の誉れ高い佐伯医学部長の確執から始まる。そこに佐伯と過去の因縁を匂わせる、神業的な手技を持つ渡海講師、一癖も二癖もありそうな黒崎助教授、高階医師を当時から「権ちゃん」呼ばわりしていた藤原看護婦長、すでにこの頃から寝てばかりいた猫田看護主任などが絡む。さらに渡海の過去にまつわる一人の患者が登場する。検査の結果、その患者の体内にはペアンが残されていた。オペを執刀したのは佐伯。はたしてこれは医療ミスか、そしてブラックペアンの正体は。と、怒濤の医療ミステリが展開される後半はグイグイと引き込まれていく。

ちなみにタイトルにある「ペアン」とは表紙にも書かれている医療器具で、組織をつまんだり血管の断端をつまんで止血したりするのに用いる。普通は金属製だが、ブラックなのは素材がカーボンだからであり、もちろん特注品という設定になっている。カーボンで出来ているので、したがってレントゲンに映らず、また患者が死亡した後、火葬してしまえば綺麗さっぱり燃えて無くなり証拠が残ることもない。こんなの、ほんとにあるんでしょうか。

ところで作者のデビュー作である「チームバチスタの栄光」だが、なんとこの度映画化が決まったそうだ。オフィシャルサイトはこちら

で配役。田口医師の性別が変わって女性になる(竹内結子)のはともかくとして、いやそれもどうかと思うのだが、物語の核である厚生労働省の役人、白鳥が阿部寛ですか。まあ原作通りの脂ぎったデブキャラだと、絵的かつ興行的にまずいのかもしれないけれど、それにしたってこれはいかがなものか。力うどんをジュルジュル喰ったりしてくれるんですかね。

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「怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道」高野秀行

2007.11.08 23:51 CST

怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道 (集英社文庫 た 58-8)怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道 (集英社文庫 た 58-8)
高野 秀行

集英社 2007-09-20
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日本を代表するメンタテインメント・ノンフィクション作家にして辺境冒険ライターの高野秀行の最新刊。トルコ奥地の湖に謎の巨大生物を探しに行ったと思ったら、次は怪魚である。舞台はインド。インド辺境の漁村付近に生息するという幻の怪魚を追った渾身のドキュメント作品。

著者曰く、昭和四十年前後に生まれた人々は、未知動物という響きに対して激しく反応する世代であるらしい。著者と私は全くの同世代。タイトルの「怪魚ウモッカ」という文字を見ただけで猛烈に身もだえしてしまった。しかし普通の人なら身もだえするだけで終わるのだが、著者はそこを一歩も二歩も、いや百歩も踏み越えるのである。

未確認不思議動物をテーマとするサイトで「ウモッカ」を見つけた著者は、いてもたってもいられなくなり、すぐさま行動に走る。かつてアフリカ・コンゴのジャングルに怪獣探しに行ったり、ミャンマーのゲリラ地帯でケシ栽培を手伝いながら数ヶ月過ごしたり、アマゾンの奥地に幻の幻覚剤を探し求め、中国の山奥に住む野人を捜した作者である。彼の禁断症状は、「何か探すものはないか」という体の奥底から突き上げる自然現象だ。そしてその標的が見つかるや否や、もうじっとしてられない。待っていられない。

しかしインドへの道、そしてウモッカへの道は、とにかく遠く、ひたすら険しい。いつもの探検、冒険行の例に漏れず、今回もこれでもかというほどに事態は予想だにしない展開を見せる。だがこれはまぎれもないノンフィクションである。正に小説より奇なることが現実に、それも山ほど起きてしまう。そののっぴきならない場面場面で、著者は熱い心と冷静な頭脳で立ち向かう。「格闘記」の格闘とは、こういう格闘だったのである。そしてあまりにも意外な結末。ううむ、こう来たか。

とまあ、予測不可能な冒険行と、それを「高野節」と呼ばれる独特の文体全開で、いつも通り最後まで一気に読了させる面白さである。

それにしても著者の本を読んでいつも感じるのは、不思議な連帯感と妙な感動である。著者の冒険譚は、おちゃらけの冒険ごっこでも単なるネタでもない。ただただ純粋に「まだ誰も見たことがないものを見てみたい」という欲求に突き動かされた結果での行動であり、そして極めて真面目でいつでもどこでも真剣に事に当たる。あくまでも著者は、怪獣や怪魚の発見捕獲という現実を見据え、持てる力の 100% を出し切って準備を行い対策を練る。そのパワーと熱さにはただただ圧倒させられ、単なる傍観者としての読者ではなく冒険の仲間としての身近さを感じ、諸手を挙げて応援したくなり、そして冒険の結果がどうであれ、読後には妙な達成感とともにある種不思議な感動を覚えるのである。これらを私は勝手に「高野マジック」と呼んでいるが、この感覚は著作を読んでもらえばきっとわかってもらえると思う。

まあ怪魚だの幻獣だの野人だの、はたから見れば馬鹿馬鹿しいことこの上ない。しかし世の中、こんな馬鹿が一人ぐらいいてもいいではないか。むしろ困る。私は大変困る。もしも高野本が読めなくなったとしたら、これほど不幸なことはない。なので著者にはどんどん世界の辺境に飛んで、探し物の冒険を続けてほしい。と無責任に応援する私である。

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「機動戦士ガンダムUC ユニコーンの日(上・下)」 福井晴敏

2007.10.19 19:50 CST

機動戦士ガンダムUC 1 ユニコーンの日(上) (角川コミックス・エース 189-1)機動戦士ガンダムUC 1 ユニコーンの日(上) (角川コミックス・エース 189-1)
福井 晴敏

角川書店 2007-09-26
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機動戦士ガンダム UC

「亡国のイージス」「終戦のローレライ」などの著者、福井晴敏によるオリジナルガンダムシリーズ「機動戦士ガンダムUC 」の小説版。

物語の舞台は「逆襲のシャア」から三年後の宇宙世紀 0096 年。宇宙世紀元年に起きたテロ事件を発端とした「ラプラスの箱」にまつわる物語が本作の基本となる。モビルスーツの開発で主導的な役割を果たすアナハイム・エレクトロニクス社と密接に関係するビスト財閥。この財閥の長であるサイアム・ビストは、始まりの事件で偶然に「箱」を手に入れる。地球連邦政府と密着し、莫大な富と名声を手に入れ、冷凍睡眠技術を駆使して 100 歳を超えても生き続けるサイアム・ビストはある計画を進めていた。そんな中、スペースコロニーに住む少年、バナージ・リンクスは、謎の少女、オードリー・バーンとの出会いから世界をゆるがす大きな波に飲まれていく。

物語はまだ始まったばかりだが、地球連邦政府とそこに癒着する財閥との関係、ジオン残党の暗躍など現在の社会情勢の説明、またスペースコロニーの構造やそこに暮らす人々の生活などの基本設定の説明にはじまり、モビルスーツとミノフスキー粒子との関係など、蘊蓄を交えつつもガンダムへの愛情が端々に見える。さらには本作の製作にまつわる面々が凄い。原案は富野由悠季、キャラクタデザインと挿絵が安彦良和、メカニックデザインがカトキハジメ。正に正統ガンダム以外の何者でもない。その「オールスター」制作陣が作り上げた世界の上で、登場人物たちの心情と愛情を巧みに描きつつも、モビルスーツ同士のドッグファイトや陸戦特殊部隊の戦闘シーンではいつもの「福井節」を炸裂させつつ、暑苦しいまでに熱く物語が紡がれていく。いやもう、いわゆるところの「ガンダム世代」ど真ん中の私にとって、面白くないわけがない。

なんでもいずれはアニメ化となる予定らしいが、あくまでも小説が先行ということのようだ。続編が大変楽しみである。

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「進化の設計者」 林譲治

2007.10.17 12:37 CST

進化の設計者 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)進化の設計者 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
林 譲治

早川書房 2007-09
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「ウロボロスの波動」、「ストリンガーの沈黙」などの著者、林譲治の進化論をテーマにした SF 小説。先日の日本出張時に読了。

時は近未来。三つの異なる場所を舞台として物語は始まる。一つ目は現在の地球シミュレータをはるかに凌駕する能力を持つスーパーコンピュータによって気象を予測する公的機関。何故か予測が外れ、大型の勢力を保ったまま北海道を直撃した台風の進路を再検討するうち、そこに新たな可能性を発見する気象エンジニア。そんな中で放火事件が起こる。二つ目は高齢化が進んだ住宅街。そこに住む独居老人の死を確認する市の福祉課職員が、警察との共同捜査でホームレスの群れの中に消えたジャーナリストを追ううち、奇妙な環境に適応した猫たちの「城」に行きつく。三つ目は太平洋上に浮かぶ超巨大海上都市。地球温暖化防止に貢献すると同時に、新たな秩序をつくる都市になるはずの未来都市をテロが襲う。一見何の関係も無いこれらの事件に、その背後に共通して見え隠れする影。「人間は神によって設計された」という ID(インテリジェント・デザイン)仮説を信奉するユーレカなる組織。彼らの最終目的とは何か?

「遺伝子の突然変異は頻繁に起こり、環境への適応は従来考えられていたよりもかなり早く行われる」また「環境に適応した新種が勢力を拡大する速度は従来考えられていたよりも早く、旧種をあっという間に駆逐する」といった最新の生物学の仮説を取り入れ、さらに近未来に実現するであろう科学技術をちりばめて、優生学や ID 仮説といった古くて新しい説を唱える組織と対比させることで、この先人類が探っていくべき道を考えされるストーリー。若干蘊蓄くさいというか、まるで科学解説書を読んでいるような部分もあるが、テーマ自体は非常に興味深い。そうした科学所見をバックグラウンドにし、サスペンスとアクションを適度にまぶしたのが本書である。

それにしても本書に登場する女性の強さはどうか。科学者でありながら自ら潜水モジュールを操縦して深海まで潜る。部下を統率する指導力もあり、おまけに美貌も兼ね備えている。なんの訓練も受けていない市井の女子がテロに遭遇したら普通はパニックに陥ると思うのだが、凶悪なテロリストにもなんらひるむことなく戦いを挑む。こんな奴いないだろう普通、とここまで書いてはたと気づくのである。この作者、もしかしてガンダム好きなのかも。そういえば潜水モジュールは手足のついた人型でなんとなくモビルスーツっぽいし、なにより主人公の女性の名前は星良さんだ。せいらさん。セイラさん。おお。

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「怪獣記」高野秀行

2007.09.01 23:06 CST

怪獣記怪獣記
高野 秀行

講談社 2007-07-18
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最近「エンタメ・ノンフ」なるジャンルの本が話題だという。エンタメ・ノンフとは「エンタテインメント・ノンフィクション」の略称である。要するに「面白おかしく読めるノンフィクション」というところだろうか。本書は、そのエンタメ・ノンフの提唱者にして、日本最高のエンタメ・ノンフ・ライターである高野秀行の最新作。

前作「アジア新聞屋台村」は日本の早稲田を舞台にした自伝的小説だったが、本作「怪獣記」は正に著者の王道であるエンタメ・ノンフ、しかも怪獣探しである。いや、こういうことを王道にしている人間は、私の知る限り故・川口浩以外に著者ぐらいしかいないと思われるが、しかしその真剣さと面白さは川口探検隊の比ではない。

本作でのターゲットは、トルコのワン湖で目撃されている「ジャナワール」なる怪獣だ。その幻の怪獣を追って、あの名著「幻獣ムベンベを追え」を彷彿とさせる探検の旅が始まる。だが今回は今までの作品と違って「いないこと」を証明しにいくのがテーマ。著者が追い求めているのは、あくまでも誰も知らないところへ行き、誰も知らないものを見ること。したがって「未知の未知動物」には激しく興味を引かれるものの、「既知の未知動物」には何ら触手が動かない。よってこの「ジャナワール」もすでに(その筋の間では)よく知られた怪獣であるから、本来は管轄外となるところである。しかもジャナワールを見たという数々の目撃談や撮影されたビデオはあまりにインチキくさく、偽物に違いないと思う。しかし何故かひっかかるところがある。それは一体何なのか。確かめるためには現地に行くしかない。それが今回の旅の動機である。

そしてたどり着いた現地で早速ジャナワールの情報を求めて探索行が開始される。だが当然ながら普通の旅で終わるわけがない。そもそもの怪獣探しの前にクルド人の民族問題に翻弄され、対するイスラム復興主義者にもなんやかやとまとわりつかれる。これは筆者の才能の一つであろう、「とんでもないことが勝手に向こうからやってくる」の連続なのだが、旅の最後に最大のとんでもないこと、湖に浮かぶ謎の黒い物体を筆者自らついに目撃してしまう。

いい年こいたおっさんが、大まじめに怪獣騒ぎの真偽を確かめるためにトルコの奥地まで探検しに行く。そしてついに謎の物体を発見する。馬鹿馬鹿しくも面白く、そしてこれほど痛快なエンタテインメント・ノンフィクションがあるだろうか。

ちなみに筆者と私は同い年。もちろん著作を読んでいるだけで人となりは全く知らないが、微妙に感じる妙な親近感は、同世代というだけでは説明できない何かがあるのかも。是非とも一度、どこかで酒でも飲みたいものである。

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「沈黙のフライバイ」

2007.07.17 23:29 CST

沈黙のフライバイ沈黙のフライバイ
野尻 抱介

早川書房 2007-02
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「ロケットガール」シリーズですっかりメジャーになった(のか?)野尻抱介の SF 短編集。

本作の表題作「沈黙のフライバイ」では、SF の基本テーマである異星人との邂逅が描かれている。「異星人コンタクトもの」というと、たとえば映画だと「エイリアン」や「インディペンデンス・デイ」、「宇宙大戦争」あたり、本では「星を継ぐもの」に「竜の卵」、そのものずばり「コンタクト」とかそのあたりか。これらの異星人たちの特徴的なのは、彼らが恐ろしい怪物であったり圧倒的な科学力で地球を侵略しようとしたり、あるいはやたらと友好的だったり妙に馴れ馴れしかったりと、良しにつけ悪しきにつけとにかく人類にちょっかいを出してくる存在だということである。もちろんストーリーの展開上、彼らが人類に手を出してくれなければ、ほとんどが単なる宇宙観光旅行になってしまい(そういうジャンルもそれはそれで面白いけど)、先に挙げた作品の基本コンセプトがガラガラと崩れてしまう。

ところでめでたく異星文明と邂と逅果たした時、一体どうするか。今も宇宙空間を飛び続けているパイオニアやボイジャーに異星文明に宛てたプレートやレコード盤が搭載されているのは有名な話だが、普通の人類の感覚でいえば、とりあえず挨拶ぐらいするのではないか。こんにちは。私はこれこれこういうもので、宇宙のこんなところから来ました。あなた方はどなたですか。良かったら少しお話ししませんか。ちょっと遠いですけれど。

しかし本作の「沈黙のフライバイ」や長編「太陽の簒奪者」など、野尻 SF に出てくる異星人たちは、これが見事に何もしないのである。いや現在の人類の科学力を遙かに凌駕したスーパーサイエンスを駆使して途轍もないことを人類に見せつけはするのだけど、人類に対しては直接的には特に何もしない。なんてそっけない、と思うのはこちらの身勝手であって、なにせあちらは異国の人ならぬ異星の生物である。なんだか得体が知れない。しかしよく考えれば異星人というのは、きっとそういうものではないか。皆が皆、破壊と侵略に猛け狂うモンスターや馴れ馴れしい友好の徒であれば、よっぽどわかりやすい。この「得体の知れなさ」を描くことでは、作者ほど巧みな人を私は知らない。

この表題作の他、2001 年の NEAR シューメーカー探査機が小惑星に落下した時の作者の体験記と、その後の未来が工作してリアリティ倍増の「轍の先にあるもの」、火星へ向かう二組の宇宙飛行士夫婦の決断を描いた「片道切符」、太陽光を使い、植物のように光合成・分解をするスーツが開発されることからストーリーが始まる「ゆりかごから墓場まで」、工学系女子大学生が考えたとんでもないアイディアが、正に風呂敷と蜘蛛の糸となって宇宙へとつながっていく「大風呂敷と蜘蛛の糸」と、収録されているその他の短編も SF らしいワンダーが溢れている。SF と言っても難解な用語や数式が出てくる類のものではないので、誰でも気軽に読めるはず。

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「小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所」 秋本治、大沢在昌他

2007.06.21 23:48 CST

小説こちら葛飾区亀有公園前派出所小説こちら葛飾区亀有公園前派出所
大沢 在昌 秋本 治

集英社 2007-05-24
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週刊少年ジャンプに連載中の人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(以下こち亀)の連載 30 周年、および「日本推理作家協会」 60 周年を記念して、日本推理作家協会の作家 7 人が「こち亀」世界を小説として描くというコラボレート作品。

よく言えばお遊び企画、悪く言えばイロモノ作品ではあるのだが、それでもなにしろ参加している顔ぶれは豪華である。作品順でいくと大沢在昌、石田衣良、今野敏、柴田よしき、京極夏彦、逢坂剛、そして東野圭吾と、当代きっての売れっ子人気作家が作品を寄せているのだから凄い。それぞれ自分の小説に出てくるキャラクタと、“両さん”こと両津勘吉巡査を見事に絡ませ、きっちり「こち亀」の世界を演出させるあたりはさすがの実力者揃いである。しかし「新宿鮫」の鮫島警部と両さんが両さんの実家の佃煮屋の前で世間話をしたり、「池袋ウェストゲートパーク」のマコトが池袋の街を両さんと一緒に疾走したりなど、まあこんなことは普通なら絶対(でもないが)あり得ないわけだが、そういうシチュエーションが楽しめるのが本作の読みどころ。

七作のうち、特に印象深いのが、まずは今野敏の「キング・タイガー」。両さんに会ったこともない定年退職した警察官が、子供の頃憧れたプラモデル作りをしながら両さんと繋がっていくストーリー。模型屋に飾られた両さんが作ったプラモデルを目標に、奥さんに呆れられながらもコツコツがんばって戦車を作っていく姿が微笑ましい。最後の最後で登場する両さんのセリフには、読んでるこちらもつい涙腺がゆるむ思い。作者は実際に一級のプラモデル製作者だそうだが、本作にはプラモデルと「こち亀」に対する愛が詰まっている。

もうひとつは京極夏彦の「ぬらりひょんの褌」。他の作品が両さんを前面に出して、ある意味真っ向勝負でストーリーを作り上げているに対して、この話だけ両さんは実際には出てこない。話の進行も大原部長を使ってくるというマニアックさ。なんでも作者は「こち亀」全巻を所持し、精読している真性の「こち亀マニア」だそうだが、マイホームパパの寺井が家探しのおりに不動産屋によく騙されていたというエピソードを利用しているのも、さすがマニアというところ。本作の版元が集英社だから「南極夏彦」が出てくるというギャグも、いかにもらしい。そして妖怪ぬらりひょんを両さんになぞらえ、謎解きとして中野の古本屋の主人こと「あの人」が登場し、最後には「あの人」の言霊によってきっちり大原部長の憑き物落としをするなど、京極ワールドと「こち亀」の見事なコラボレーションには脱帽するしかない。特に京極堂シリーズが好きな人ならば、最後の最後の一行で間違いなく涙するはず。

ということで、一作一作が短めで若干物足りないような気がするが、「こち亀」ファン、それぞれの作家のファン、あるいは両方のファンであれば間違いなく楽しめる。おすすめ。

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「酔いがさめたら、うちに帰ろう」

2007.05.20 23:30 CST

酔いがさめたら、うちに帰ろう。酔いがさめたら、うちに帰ろう。
鴨志田 穣

スターツ出版 2006-11
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著者は、漫画家西原理恵子の元旦那。今年三月に腎臓ガンで死去。以前から相当な大酒飲みであったらしいが、離婚後に更に酒量は激増。朝から晩までの連続飲酒によりアルコール依存症となり、治療のために入院した病院での生活を描く私小説。

西原理恵子の漫画でも彼のアル中ぶりはたまに描かれていたが、本書にて自らの飲酒習慣について語る節は非常にリアルかつ恐ろしげである。まず朝起きると、とりあえず酒を飲む。しかし前日の酒がまた体内にたっぷり残っているため吐く。それですっきりしてまた飲めるようになり、その後は夜までひたすら飲み続ける。そんな生活を続けていれば体が悲鳴を上げるのは必然である。黄疸で顔は土気色になり、腹水がたまった腹はカエルのように膨れ、寝ている間の失禁(大小ともに)、そして食道静脈瘤破裂によって大量に吐血する。医者にはこれ以上酒を飲んだら死ぬと宣告されても、酒が止められるわけがなく退院すれば再び酒漬けの毎日。

そしてまた血を吐いて病院に運び込まれる。検査をしてみれば当然ながら肝臓も腎臓もボロボロ。脳もアルコールで萎縮している。酒を飲むばかりでほとんど食べ物を口にしないからか、極度の栄養失調により肋骨が自然に何本も折れる。ついでに自然気胸で肺にも穴が空く。実に凄惨なアルコール依存症の実態である。そういえば中島らもの「今夜、すべてのバーで」でも、また吾妻ひでおの「失踪日記」にも、連続飲酒からアルコール依存症、そして入院への経緯が描かれていたが、アルコール依存に陥った人間は皆同じような行動を繰り返し、そして破滅の奈落へと真っ逆さまに落下していくのが怖い。

著者の文章はお世辞にも上手いとはいえないのだが、何とも言えない不思議な味がある。戦場カメラマン時代に、タイやカンボジア、ミャンマーなどでいくつもの死線をくぐり抜けてきたそうだが、そこで得た死生観からだろうか、自分自身を少し上から俯瞰して見ているというか、ある意味達観した感じというか。せっかく愛する家族に恵まれたのに、それでもアルコールに溺れていかざるをえなかったのは、きっと著者がいい加減な人間だったからではなく、ある意味で純粋で脆い人間だったからなのでは。本書を読むとそんな気がしてくる。

それにしてもアルコール依存症とは、なんとも恐ろしいものである。私も酒は好きなので他人事ではない。さすがに朝から飲み続けてそのまま意識喪失、翌日も再び朝から飲むなんてことは無いにしても、宴会や飲み会で飲み過ぎて酩酊したり記憶を無くしたりしたことは何度かある。そう言う意味では私も、もしかしたら危険なゾーンに足を踏み入れているのかも。

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Old Topics

2007.04.26 23:06 「川の名前」
2007.03.20 23:54 「真鶴」
2007.02.14 23:18 「冬至草」
2006.10.23 23:54 「邪魅の雫」
2006.08.08 23:38 「ディアスポラ」
2006.07.19 23:36 「火星縦断」
2006.06.22 23:37 「獣の夢」
2006.05.25 23:46 「暗礁」
2006.01.25 23:28 「気になる部分」
2005.12.30 23:25 「血液魚雷」
2005.06.11 23:12 「戦国自衛隊1549」
2005.05.20 23:32 月に繭 地には果実
2005.03.15 23:03 「左手首」
2005.03.08 23:39 「万物理論」
2004.12.23 23:59 「AΩ」
2004.12.17 15:45 「6 ステイン」
2004.11.30 20:16 「偶然の祝福」
2004.11.06 23:57 「封印」
2004.11.05 23:49 「大博打」
2004.09.27 23:59 「quater mo@n」
2004.09.16 23:59 「揺籃の星」
2004.07.28 23:59 「百器徒然袋 風」
2004.06.18 23:59 「夜啼きの森」
2004.06.16 23:12 「The S.O.U.P.」
2004.06.15 23:04 「新撰組血風録」
2004.05.16 18:26 「蕎麦の蘊蓄」
2004.05.11 23:33 「黄金旅風」
2004.04.19 14:06 「二度のお別れ」
2004.02.27 16:08 「この俗物が!」
2004.02.23 23:00 「燃えよ剣」
2004.02.19 10:43 「燻り」
2004.02.13 11:07 「本人の人々」
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