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・・・寝言の如く書き綴る日々の思い付き・・・


第169話 (1999.07.04)電気給仕は鍋焼きうどんの夢を見るか?

我が家はとある私鉄沿線駅近くにあって、言ってみれば首都圏にありがちなベッドタウン、いわゆる典型的な住宅街なのだが、その割にこの周囲にはなかなか美味い料理屋が多いような気がする。

例えば本欄にも幾度か登場した、頭が良くなる謎の成分を配合したという一種ドクター中松的な体臭がプンとする、医学博士が店の礎を築いたラーメン屋や、常に大行列が絶えない回転寿司屋と、とても系列店とは思えないほど店名に関連性のないその姉妹店、何故かひとりで行くことの多い安くて美味い焼肉屋、また日記には書いたことがなかったような気がするがその他にも例えば、最近オープンしたインド人シェフが腕を振るう本格カレー屋、いつ行っても店内のテレビではなぜか野球中継(しかも読売戦のみ)が無声音で放送されている謎のパスタ屋、元関脇力士が廃業後にオープンした九州風味ラーメン屋などなど、味も店構えもそして謎の度合いも実にバラエティに富んだ飲食店が、我が家から半径1kmほどの範囲に散在しているのである。

会社までの通勤経路にあるとある蕎麦屋も、そんな「我が家の周りの美味い店」に数えられるにしかるべき味を誇る蕎麦・うどん専門店である。この店の存在だけは随分前から知っていたにもかかわらずなかなか訪れる機会がなかったのだったが、しかしある時ふらっと立ち寄ってその美味さに感銘し、以来ちょくちょく蕎麦とうどんを食べに行っているのである。

ここは幹線道路からちょっと路地を入ったところにあって、俺が最初に訪れた当所はその今一つ目立たない位置的な問題でそれほど繁盛はしていなかった。ところが味の美味さに徐々に固定ファンがついたのか、最近では昼時や夕方の繁忙時ともなるとちょっとした行列が出来るほどの人気を博すまでになっている。繁盛していなかった頃は麺を打つ主人とその奥さんの二人で給仕からなにからの全てを切り盛りしていたのだが、忙しくなってしまったここ最近、やむなくアルバイトを二人ほど雇ったようなのであった。

で、このアルバイト店員、恐らく大学生ぐらいか、まだ若いあんちゃん達なのだが、一人は痩せぎすでヒョロヒョロと背が高く、もう一人は丸顔でずんぐりと小柄で、二人並ぶと縮尺的にはまるで爆笑問題その人なのである。いやまあ見た目が爆笑問題なのはいい。それはそれで面白いがその風体の最も特徴的な点が、動きが非常にメカっぽいということだ。メカっぽいと言われたってなんなんだそれはと思うかもしれないが、一時期流行ったロボットの動きを真似るパントマイムを思い出して欲しい。こやつら、万事があんな動きなのだ。

ということで俺は密かにこの二人のことをメカ爆笑問題と呼んでいるのである。



早春のある日、たまたま晩御飯を食いっぱぐれてしまった俺は、会社の帰りに久しぶりにこの蕎麦屋によってみたのだ。春とは言えそれは名ばかりで、朝晩はまだかなり冷え込む頃合い。残業を終えて会社を後にした時にはすでに日はとっくに落ち、冷たい風がピューピューと吹く寒い寒い夜だった。こういう時はうどんに限る。しかも味噌煮込みうどん以外にない。ないったらない。ということで、頭の中がすっかりうどんで支配されてしまった俺は、蕎麦屋の駐車場に車を滑り込ませたのだった。

ガラガラ。へい、っらっしゃい。暖簾をくぐって店のガラス戸を開けると、店主の威勢のいい挨拶が響く。閉店間際という時間帯もあり、店内は閑散としている。とりあえず空いている席に見を落ち着かせ、テーブル奥においてあるお品書きを開いてみる。すでに注文は決まっているのだが、一応は儀礼的にメニューにざっと目をやるのも悪くはない。何か新メニューが追加されているやもしれない。ふむ、いやしかし特に目新しい変化はないな、などとやっていると、アルバイト店員がお茶を片手にやってきた。

「イラッシャイ−マセ」

出たなメカ爆笑問題。今回の俺の担当はコンビの片割れの小さい方、つまりメカ爆笑問題(小)である。ドンとお茶をテーブルに置く動作もどこかメカメカしい。それにしてもこやつ、無表情なのはあいかわらずなのだが何やら目が怖い。と言うか、焦点が定まっていない。

「ゴチュウモンハ−ナニニナサイマスカ」

その高揚のない口調はやめなさい。

「えーっと、じゃ、味噌煮込みうどんを」
「ミソ−ニコミ−ウドン−デスネ」

俺の注文を聞き、手持ちの伝票にその旨を書き込むメカ爆笑問題(小)。鉛筆を握る手つきも筆跡もどことなくぎこちない。しかし君、機械だったらわざわざ紙に書くよりもワークメモリにフラグでも立てておいた方が早くて正確なんじゃないの?

「ショウショウ−オ−マチ−ク−ダサイ」

注文を書き終えると来るっと向きを変え、なんだか文節の区切りがヘンテコなキメ台詞を残して、メカ爆笑問題(小)は厨房へと消えていった。それにしてもこの男、歩き方もなにやらおかしい。膝の曲げ伸ばしが妙に勢いがついており、一歩一歩ピョンピョンと飛び跳ねるように歩いていくのである。おそらく姿勢制御ジャイロがイカれているか、慣性歩行プログラムにバグがあるかどちらかだろう。悪いことは言わないから、メカニック担当者に早いとこ直してもらいなさい。

ほどなくしてメカ爆笑問題(小)の手により注文の品が運ばれてきた。お盆にのせられたそれは、いかにも出来立てほやほやという案配で湯気がもうもうと立ち昇っている。おおっ、待ってましたこれこれ。これが食いたかったんだよなあ。

「オマタセ−イタシマシタ」

お盆を持つ手がどことなく震えているようだ。彼の上腕部にかかる許容荷重ギリギリなのだろうか。おいおい、どうでもいいけどひっくり返すなよ。早く置いて俺に食わせろっての。

「ゴチュウモンノ−ナベヤキ−ウドン−デス」

そうそう。鍋焼きうどん。この季節、うどんはこれにかぎるんだよね。このカツオでだしを取った醤油風味の汁がうどんに絡み付いて、その上にはじっくり煮込んだ具が盛りだくさんのっちゃってさ。土鍋の暖かみが実に食欲をそそるじゃありませんか。それをこうハフハフ言いながらチュルチュルっと…。ん?鍋焼きうどん?

おいコラァ!注文間違えとるだろが!俺が頼んだのは「味噌煮込みうどん」で「鍋焼きうどん」じゃねえだろうがあ!てんめえ、歩き方も変だが耳までおかしいのかよぅ。さては音声認識AIもイカれてやがるな。何とか言えこら。

「モモモモ−モウシワケ−アリアリアリマ」

メカ爆笑問題(小)はしどろもどろに詫びの言葉を吐いた。顔は見る見る真っ赤に紅潮していく。予期しない突発的なエラー状態に陥り、どういった機序なのかは知らないが体内に埋め込まれている超小型原子炉がフル稼動状態になっているようだ。おいおい、中性子制御棒をちゃんと出し入れしないとメルトダウンを起こすぞ。ひとりチャイナシンドロームか、お前は。

ふと手元を見ると、ぎゅっと握り締めた手が小刻みに震えている。なにやら今にもロケット☆パンチとなって飛び出さんという雰囲気である。危険である。非常に危険である。奴は今、エラーループにはまり込んでいるのだ。そのコードにどんなバグが潜んでいるか分からない。とち狂った制御プログラムが暴走し、ロケット☆パンチが、それもダブルでぶちかまされないとも限らない。この至近距離で音速を超えて向かってくるパンチを受けた日には、いかな俺でもひとたまりもないのだ。確かに味噌煮込みうどんは捨て難い。しかしとりあえず鍋焼きうどんでも悪くはない。ここはひとまず穏便に済まそう。たかがうどん一つで逆ギレされた挙げ句に、ロケット☆パンチで命を落としたとあってはいい世間の笑い者だ。まあそれはそれで日記のネタ的にはおもしろそうではあるが。ああっ、死んだら書けんか。

「い、いや、もうこれでいいからさ。とにかく今度から気をつけてよ」
「ドウドウモ−スイマセン−デ−シタ」

あいかわらず顔は紅潮し、手を小刻みに震わすメカ爆笑問題(小)。ロケット☆パンチはなくても目から殺人光線が発射されそうだ。

しかしその時、メカ爆笑問題(小)の額が汗でうっすらと光っていた。それを見た俺は、なんだかほんのちょっとだけホッとしたのだった。



一つ前の寝言
第168話 新婚旅行に火星はいかが?(1999.06.30)
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