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・・・寝言の如く書き綴る日々の思い付き・・・


第170話 (1999.07.08)ありがとう君に

あなたが今住んでいる街、あるいは遠く離れた故郷に、いわゆる特産品というにはどういうものがあるだろうか。例えば北海道なら蟹やジャガイモ、仙台なら牛タン並びに萩の月、新潟だったら笹団子、香川県には讃岐うどん、鹿児島では薩摩あげ。まあ他にもいろいろあろうが、土地土地で一つや二つの名産特産の類は必ず存在するものである。

ここで俺の生まれ故郷、横浜はどうだろう。まず筆頭は崎陽軒のしゅうまいか。なに?食ったことがない?それはいかんぞ奥さん。例えばJR横浜駅や新幹線が停まる新横浜駅など、横浜の主要な駅の構内には必ず崎陽軒のスタンドがあるので、横浜を訪れた際には是非一度食して欲しい。次はなんだろう。やはりベイブリッジ・サブレか。観光地になんともありがちなあれではある。ちょっと口に出していうには恥ずかしさが伴う名称ではある。しかし最近とみにその認知度を上昇させていると聞く。いいではないか。この世界、有名になった者勝ちなのだ。類似品として昨年秋に彗星の如く登場したホッシー君サブレなるものもあるらしいが、これはちょっとホントに恥ずかしいので除外しておきたい。

そこでやはりハーバーである。有明製菓のハーバーである。ハーバーといえばあの「ありあけ〜の、ハ〜バァ〜」というテレビCMをご存知だろう。む。これはもしかして関東ローカルなのか。まあとにかくそういうテレビコマーシャルがあったのだ。知らない人はあったのだと思って頂きたい。とにかくそのCMによってハーバーは、洋菓子界で最も有名かつ最高峰の地位を欲しいままにしてきたのである。もちろん名ばかりではない。その柔らかな食感ととろけるように高貴な甘さが、洋菓子の盟主としての威厳と誇りを雄弁に物語っていたのであった。ハーバーは崎陽軒のしゅうまいと並んで、横浜名産二大巨頭と呼ぶにふさわしい一品であろう。

それにしても、あのハーバーの美味さといったらどうか。形は一見妙である。二次元的視点ではそれは四角なのであるが、横から見ると中央部がこんもりと膨らんで両端は尖った形状で、上の方はこんがりと焼けてこげ茶色にツルツルしている。方や下方に目をむけるとそこはなんともカステラ状というか、スポンジのようにふんわりとしている。そんなちょっと不思議な物体を一口食べると、その上下の固さと微妙な風味の違いが口腔の上下部に、つまり上唇と下唇、上顎と舌に、なんとも形容のし難い不思議な感触を与えるのである。その絶妙な食感を楽しんだ次の瞬間、上品な甘味としっとりとした感触をもった中央部の餡が「ぽてっ」と口中に現われ出でるだ。うまい。と、何度嘆息を漏らしたことだろうか。これぞ洋菓子の王様。これぞお菓子の中のお菓子。ハーバーこそ横浜が産んだ至高の甘味物なのである。いや、そこまで言ったらほめ過ぎですかそうですか。

ああっ、だがしかし。あまりに悲しい事実がハーバーの製造・販売元、有明製菓の身に降りかかってしまったのである。要するに倒産である。ぶっちゃけて言うと潰れてしまったのである。創業60年を超す老舗菓子メーカの有明製菓は、6月30日をもって倒産の憂き目にあってしまったのである。なんたることか。正に寝耳に水。あるいは青天の霹靂。有明製菓の頭上には恐怖の大王が、アンゴルモアの大王が空から降り立ち、怒りの鉄槌を惜しげもなく振りかざしてしまったのであった。世間では大ボラ吹き呼ばわりされているノストラダムスのおっさんの戯れ言も、こと有明製菓に関しては正にドンピシャリ、的中も的中、大当たりしてしまったわけなのである。うむむ、案外やるなノストラダムス。もしかして狙ったのと違うか有明製菓。

報道機関によると詳細はこうだ。

有明製菓は神奈川県内を中心に70店舗を超える直営店及びフランチャイズ店を出店させ、積極的に業容を拡大していたのであった。オリジナルブランド「ハーバー」は和洋菓子では高い知名度を誇り、92年1月期には年売上高約55億5600万円を計上し、当地横浜ではトップクラスに成長していた。しかしその後は消費低迷による売り上げ不振などから、99年同期の年売上高は約50億円にとどまっていたうえ、相次ぐ工場の設備投資による借り入れが年商規模にまで膨らみ、金利負担重く実質債務超過に陥っていた。このため、今期に入って不採算店の閉鎖や一部人員の削減、さらには物流コストの軽減などを進めていたが、売り上げの減少に歯止めがかからず、今後の事業継続が困難なことから、今回の措置となった。

そういうことだそうだ。どうやら本当のようである。倒産は事実なのである。父さんは切れ痔なのである。つまらないことを言っている場合ではない。うむむむ。はたしてこのまま横浜銘菓ハーバーをこつこつと作り続けてきたこの老舗菓子屋を、なんの抗いもせずに歴史の表舞台から退場させていいものだろうか。横浜の代名詞ともなった一大オリジナルブランドの火を、こうも簡単に消し去ってしまうこの屈辱を、ただ漫然と看過してしまって良いのだろうか。

否である。断固として戦うべきである。そうだ。今こそ立ち上がるのだ横浜300万の民よ。君達がやらずに誰がやる。とりあえずは負債50億の返済だ。300万市民が一人頭2千円ポッキリ出せば借金完済な上、当座の操業資金も工面できよう。どうだ。たったの2千円だ。安いものではないか。しかし市民にだけ負担を強いるのもなにだろう。ここは一つ行政にも一肌脱いでもらわねばならぬ。血税を使って横浜ドームを作るなどと戯けたことを言っていないで、その公的資金を注入しての有明製菓再建をトップ・プライオリティとして市議会で審議して頂きたい。官民一致団結して横浜の味を守るのである。俺も遠い千葉の空の下、ささやかながら募金や署名には手を貸す所存である。とにかく戦え。戦うのだ横浜市よ。横浜の力を世に見せつけてやる時が来たのだ。

とまあ息巻いてはみても、しかし現実として残念ながら有明製菓の倒産は甘受せねばならない。悲しいことである。認めがたいことである。けれど、どうにも仕方がないことである。ここは一つ、笑って送ってやろうではないか。それが伝統を守り続けた勇者の最後に対する、我々が出来る唯一の葬送儀礼であるのだ。そういうことで、ありがとう有明製菓。ありがとう有明のハーバー。あのハーバーの甘い香りを、柔らかな舌触りを、未来永劫二度と口にすることが出来なくなるのだとしても、俺の心の中ではあなた達はいつまでも思い出の中に生き続けているのです。俺にとって有明製菓は永遠に不滅です。有明のハーバーは永遠にお菓子のホームラン王なのです。って、それはナボナだろ。



一つ前の寝言
第169話 電気給仕は鍋焼きうどんの夢を見るか?(1999.07.04)
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