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・・・寝言の如く書き綴る日々の思い付き・・・


第174話 (1999.07.20)歌う門には福来ない

前回のこの欄で俺のカラオケ嫌い・歌嫌いについて、その主な理由と克服方法について延々と一説ぶってみたわけなのであるが、それをここでちょっと簡単にまとめてみよう。

  • 希薄な人間関係が漂うカラオケの雰囲気が嫌い
  • カラオケボックスのたいがいは音響がショボイ
  • しかしそれらは言い訳で、結局は歌が下手なのが最大の理由
  • 歌を上達させるにはともかく練習あるのみ
  • 歌うべし歌うべし

    そういうことで、カラオケが嫌いだと強く主張した話としてはいささか矛盾した結論であるような気がしないでもないが、とにかくカラオケを克服するにはとにかく歌い込みが必要だと意を決してしまった俺は、さっそく自分の歌下手を改善すべく、人知れず歌の練習がが出来るように車を即席専用カラオケボックスにしたてあげたのである。当面の練習曲としては当所の考え通りに、横浜ベイスターズ球団歌の「熱き星たちよ」をまず取り上げ、家から会社までの道のりをマイ・カラオケボックスにて歌の練習に余念のない毎日を送るのであった。

    で、その横浜ベイスターズ球団歌である。いったいこれを読んでいる方の何人がこの歌を知っているだろうか。いくら昨年日本一に輝いたチームだとは言え、所詮はマイナー球団。しかもその球団歌だ。コアなベイスターズファン、あるいはテレビ神奈川の視聴者以外の人にとってはどんな歌であるかなぞとんと想像できないかもしれない。それはもっともな話である。

    ところでこれはご存知の方は多いと思うが、横浜ベイスターズはその昔、大洋ホエールズという球団名だったのだ。その頃の球団歌は、「いくぞ大洋、いくぞ大洋、勝利を目指し、ゴーゴーゴー、ゴー」というどこか間抜けな歌詞とホンワカとしたメロディが聞く者の脱力を誘い、およそ闘争心とかそういったものとは無縁だったのだが、それはそれとしてファンの間では長く愛された歌だった。それが1992年に球団名を現在の「横浜ベイスターズ」に改名し、それを機会にそれまでは大味なイメージが強かったチームカラーをもっとスピード感のある溌剌としたイメージに変えるとのコンセプトに基づき、球団歌もぐっと洗練された「熱き星たちよ」へと代替わりしたのであった。確かにこの曲はノリがいい。どことなく一時のオメガトライブやチューブあたりを彷彿とさせる現代歌謡曲風に爽やかにアレンジされたメロディが、アップテンポで小気味よいリズムの上を滑らかに疾走するといった具合で、実に躍動感に溢れている。で、肝心の歌詞はこんな感じだ。

    ♪Oh Oh Wow Wow 横浜ベイスターズ
    ♪燃える星たちよ Let's Go!
    ♪Oh Oh Wow Wow 横浜ベイスターズ
    ♪夢を追いかけろ〜
    なんだか曲調が変わっただけで「♪いくぞ大洋、いくぞ大洋〜」とちっとも変わっていないような気がするが、それは気のせいだ。それにしても球団歌は確かに若々しくなったけれど、しかし肝心の選手の体質やゲームの内容が依然として大味なのはどういうことだろうか。まあそれは深く考えないことにしよう。

    さて練習である。歌詞もメロディもすでに熟知し、横浜スタジアムで何度も歌っているこの歌、いくらなんでもこれぐらいだったら簡単に歌えるだろうと最初は甘く見ていたのだ。しかしいざ改めて一人で歌ってみると、これがどうしてなかなか難しい。と言うか、こんな歌ですら満足に歌えないほどのヘタヘタっぷりだったということなのだった。何と言うことか。俺はそこまで酷かったのか、といきなりブルーが入る日々だったが、それでも諦らめずに何度も何度もしつこく歌い込んでいるうちに、声を出すコツ、つまり声帯の筋肉を操る術がだんだんと分かるようになり、やがてそれなりに歌えるようになってきたのだ。おお、俺もやれば出来るではないか。俺の頭の中では「熱き星たちよ」に代わってロッキーのテーマソングが鳴り響き、ラッパを持った天使がピヨピヨと飛び回っている。俺はやった。やったのだ。何かに勝利したのだ。

    よし。そうとなれば今度は別の曲にも挑戦だ。こう見えても俺はロッケンローラーの端くれ。どうせやるならロックの、しかも英語曲に挑んでみるというのはどうだ。ということで次なる課題曲はこれだ。最近お気に入りでヘヴィ・ローテーションで聞いている、全身刺青男ジョシア・トッド率いるLAのロックンロール・バンドBuckcherryの、デビューアルバム一曲目「Lit up」。これで決まりだ。ところでこの曲ではいったいどういうことが歌われているのだろうか。

    ♪俺はコカインでぶっ飛んでる
    ♪そうさ、またイっちゃってるのさ
    ♪お前のママは白いラインを詰め込むのは罪だと言ったけど
    ♪コカインが大好きなんだよ
    ♪俺はコカインが大好きさ〜
    うーむ、こうして訳してみると何やらとんでもない歌詞だということが分かったが、いやいやこれこそロッケンロール。ロック万歳!ドラッグ万歳!天皇陛下万歳!

    さっそくCDをカーステレオにセットし、曲に合わせて俺は歌い始めた。しかしさすがそこはロッケンロール。「熱き星たちよ」のように比較的簡単にはいかない。所々俺の声域を越えるようなフレーズもあって、なかなかこれをマスターするのは厳しいぞ。それでもやはりロックは俺の体に合っているのだ。ハンドルを握る手つきも軽く、俺は歌い続けたのだった。

    おおっと、信号が赤になった。くそう、せっかく調子に乗っていい感じになったきたところなのに。水を差す実に無粋な信号である。ままよ。信号突破だ。俺のこの燃えたぎったロック魂は何人たりとも止められやしないのさ。と、無軌道でアナーキーなパンクス野郎だったら信号を無視して交差点を突っ切っていくところだろうが、いやしかし俺はそういう奴等とは違うのだ。いくらロッケンローラーと言えども、交通ルールは尊守せねばならない。地に足ついたロック野郎とはそういうことだ。

    キキッと停止線きっちりに車を止めて信号が変わるのを待つ。もちろんその間も歌を止めることはない。Don't stop、keep on rockin'!ってなもんだ。

    ♪I love the cocaine(コカインが大好き〜)
    ♪I love the cocaine(俺はコカインが大好きさ〜)
    と、その時、助手席の窓をコンコンと叩く黒い人影が二つ。おいおい何だよ。人がせっかく調子良く歌ってる最中だってのに、何なの?え?なんか用なのこんなところで。街灯にぼんやりと浮かんだその人影をよく見ると、何やら黒い警棒を持ち、ツバ付きの帽子を被った制服姿の人。その人は、窓の外から凄い形相でこちらを睨んでいる。え、えーと、あなたはその、お巡りさんっすか?

    ここで何してるんだって、そりゃ見ての通り信号待ちなんですけど。え?コカイン?そ、それはその、歌の歌詞であってただ私は歌の練習をしているだけなんですが、って窓を閉め切ってるのになんで聞こえたんですか?は?後ろの窓が開いてる?ややっ、本当だ。さっきクーラーが効くまで窓を開けてて閉め忘れたんですね。ってことは俺の歌、外に筒抜けってこと?いやあ、それはまいったな。そんなことよりコカインって何かって?ですからそれはあくまでも歌詞であって…。ええ、ええ、車を端に寄せて止めますとも。言う通りにしますとも。私は善良な市民ですから警察にご協力するのはやぶさかではないですとも。でコカイン?いやですから何度も言いますようにそれは歌の歌詞でして。は?荷物を見せろ?いいですともいいですとも。いくらでも見て下さいまし。私はやましいものなどこれっぽっちも持ってませんから。じゃあこれは何だってお巡りさん、それは常備薬の胃薬でして、私こんなナリをしてますけどこう見えても繊細で胃腸が弱いもんでって、私の話を聞いてますかお巡りさん。胃薬だって言ってるのに何をそんなに繁々と見ているんですか。そりゃあ白い粉末ですけどコカインとかそういうものじゃないんですから。あ、ピリッと破いて舐めちゃって、ちょっとちょっと、どうして二人して顔を見合わせているんですか?だから胃薬だって何度も言ってるじゃないですか。ちょっと署まで来てもらおうかってどういうことですか?あんたみたいのをジャンキーって言うんだってそんなこと言っていいんですか?今の会話録音してますからWebに貼りつけてやりますけどそれでもいいんですね?いいからつべこべ言わずにとっとと来いって腕なんかつかんじゃって、ちきしょーっ、不当拘束だーっ。冤罪だーっ。官憲の横暴だーっ。弁護士を呼べーっ。警視総監を呼べーっ。ついでにアイドルの奥菜恵も呼べーっ。

    やっぱり俺には歌は向いてないのであった。



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