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・・・寝言の如く書き綴る日々の思い付き・・・


第175話 (1999.07.27)ニコラ博士も肩が凝る

物や現象の大きさといった物理量を数値で表すこと、つまり計量という行為は、人間だけが持つ知恵である。いやもしかしたら人間以外の生物、例えば相応の知能を持つと言われるイルカやクジラといった我々哺乳類の仲間たちは、家族や群れの個体数を認識したり餌場までの距離を仲間同士で教えあったりする時などに、彼らなりの「単位」を使用しているのかもしれないが、体系的・統一的にそれを使いこなしているのは恐らく人間だけであろう。

この計量という概念はいつ頃から始まったものなのか。少なくとも集団での生産活動が必要となる農耕が我々人類の歴史に登場する頃にはすでに計量は一般化され、それに使用される何らかの「単位」が存在したであろうと推測される。人類が物の大きさ、量と測定するようになってから少なくとも5,000年の歴史が経過していると考えられていて、既に紀元前200年以前の中国では秦の始皇帝による中国統一とともに、国家制度として単位の統一が計られていたそうである。さすが中国4,000年。昔の人は偉かったのだ。

ところで世界のどこの地域でも「人の身体の部分」を基準とする方法が最も旧くから用いられてきた。例えば我々日本人になじみ深い「尺」という単位は古代中国で規定されたもので、手を広げたときの親指から中指の先までの長さを基準とした単位である。その他にもバビロニアなど古代オリエントで広く用いられた長さの単位「キュービット」は「肘」という意味で、肘から指先までの長さを単位にしたもの。未だに欧米で使用されていて、先日のハイジャック事件でまたぞろ耳にすることが多かった「フィート」は文字通り足の裏の長さのことで、単数形の「フート(フット)」の複数形が「フィート」なのである。さらに「インチ」も大麦3粒分の幅を単位としたものがその起源だ。

というようにいまだに使用されている単位もあるが、かつては世界各国・地域にてんでバラバラな単位が乱れ飛ぶという状況があり、さらに同じ名称を持つ単位でも地域によってその単位の示す量が異なるといった不便もあったのである。そうした単位の不統一が不正や詐欺、あるいは争いの原因になってきたのであった。それはそうだろう。あなたと私で単位が違うのである。例えば同じ100でも¥100と$100ではえらい違いである。混乱するのは当たり前であろう。

そんな混迷を打破すべく、精度の高い国際的に共通の単位系として登場したのがメートル法である。1795年、フランス国民議会の採択によって、長さをメートル、面積にはアール、体積にはリットル、質量にはグラムを基本単位として産声をあげたのであった。とりあえずはめでたしめでたし。こうして単位の国際的な統一はメートル法という形で実現したわけだが、メートル法への統一からおよそ100年の歴史が経過していく中で、さらに科学技術や産業が発達し、メートル法を基礎とする多くの単位が乱立する結果を招くようになってしまったのだ。

そこでさらにもう一段階上の単位系として新しく制定されたのが「国際単位系」、略称「SI」である。基本単位は、長さのメートル、質量のキログラム、時間の秒、電流のアンペア、熱力学温度のケルビン、光度のカルデラ、さらに物理量のモルを加えて7個とすることが取り決められたのだった。

このSI単位系は1960年の国際度量衡総会において採用決議が行われ、規格や基準の国際的な整合性を図るために世界各国で使用されるようになったのだが、日本でも1993年に計量法が改正され、SI単位が法定計量単位となった。それに伴いSI単位系に倣わない単位はその使用を控えるようになったため、身近なところでは天気予報などでおなじみだった「ミリ・バール(mb)」が「ヘクト・パスカル(hPa)」に改められたのはご存知だろう。ちなみに熱量を表わすカロリー(cal)は身近な単位のひとつだが、SI単位系ではジュール(J)に統一される。しかしカロリーからジュールへの変換はかなりややこしく、さらにカロリーという単位自体がすでに一般的に広く認知されているため、人や動物が摂取、代謝する物の熱量を表わす場合は「用途を限定して使用が認められる非SI単位」として今後も使用が認めらているらしい。

このように世界のあらゆる分野で結びつきが緊密になった現在、単位の国際的統一基準として制定された国際単位系(SI)は、科学技術ではもちろんのこと、あらゆる社会生活分野でも理解され、使われるただ一つの単位系として、大きな役割を担うことになったのだった。


と、とある話の前振りとして単位についていろいろ調べて書き出してみたら、なにやら異常に長い前振りになってしまった。本当はここから更に話が続く予定だったのだが、うーむ、なんだか猛烈に疲れてしまったぞ。やめやめ。こんなカタイ話、読んだって誰も面白くないよな。ここはちょっと気分を変えてテレビでも見ようと思う。

ぷち。リモコンの電源ボタンを押してパワーオン。プロ野球ニュースか。もうそんな時間か。台風の影響で危ぶまれたみたいだが、結局今日のオールスターゲームは行われて確か全セが勝ったんだったな。おお、MVPに新庄って、まさかピッチャーでもやったからじゃないだろうな。と、ガチャガチャと適当にチャンネルを回す。ああそう言えばこのテレビ、結婚した時に買ったから早くも8年目なのである。これまで一度だけ突然電源が入らなくなったトラブルがあった以外、文句も言わず黙々とテレビ画像やビデオテープ画面を映し続けてくれるなかなか働き者の愛い奴だ。今のところ目立った画像の劣化などなく、テレビ放送がディジタル化される数年後まで、もうちょっと現役で頑張ってくれたまえよテレビ君。

しかしこのテレビ、当時としては大画面ともてはやされた29インチで、それまでせいぜい24インチ程度の画面サイズしか知らなかったものだから、買った当初は「おおっ、画面がでけえ!」と単純に喜んだものだが、最近当たり前のように電気屋の店頭に並んでいる32インチ、36インチといったさらに大画面のテレビや流行の平面ブラウン管などと比べてみると、さすがに画像表示性能の低さは如何ともし難く、実はそろそろ買い替え時期か、などと密かに考えているのだった。おっと、いかんぞ。こんな無意識のうちにも非SI単位が忍び込んでいるのだ。29インチじゃなく73.66ミリと言いなさい73.66ミリと。言いにくいっすね。それなら大麦87粒分でどうだ。食糧配給じゃないんだから。

と、そこで突然画面が変わって我に返ったのであった。CMだ。良いタイミングである。くだらないことを考えてないで俺が表示ましましたる画像の移ろいに身を任せろということか。わかったよテレビ君。あらゆる思考を停止して、俺の全てを君に委ねよう。そこでテレビ君はおもむろにピップエレキバンのCMが流したのであった。おなじみのアレである。「ピ!」とか言ってるそれである。ああエレキバンね。最近また肩凝りが酷いからなあ。今度薬局で買って試してみるか。などと流れる映像をボウッと見ていると、ところがそのおなじみなはずのCMで、おやと思う個所があったのだ。

「ピップエレキバンは80ミリテスラの強力な磁気の力で肩凝りを…」

停止したはずの思考が再び動き出した。あら?80ミリ?確か以前はもっと大きな数字だったような気がするぞ。再び我に返った俺はさっそくPCを起動し、ピップフジモトのWebサイトを覗いてみた。すると、そこにはこんな記載があったのだ。

Q: ピップエレキバンの磁石は、弱くなったの?
A: いいえ この表示は、計量単位が変わっただけです。エレキバンの800ガウスという表示は、80ミリテスラに変更になりました。エレキバンの磁石の強さは、従来と同じです。
そうだったのか。単位系統一の影響がこんなところにもあったとは。それにしても800ガウスから80ミリテスラ。うむむ数字部分だけなら一万分の一じゃないか。弱い。弱いぞエレキバン。なんか効きそうにないなそれは。



一つ前の寝言
第174話 歌う門には福来ない(1999.07.20)
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