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・・・寝言の如く書き綴る日々の思い付き・・・


第176話 (1999.08.02)ヤキソバ会秘密会合潜入報告(第一報)

1.はじめに

最近様々な不穏な動きを見せている地下組織「ヤキソバ会」。その「ヤキソバ会」の秘密会合が、7月某日、都内某所にて行われるとの情報を、私はあるルートを通じて入手した。その会合での主な目的は新規信者獲得であることはほどなく判明したのだが、さらに調査を進めた結果、それとは別に既存信者の組織に対する忠誠を誓うために使用すると思われる「ヤキソバ弁当」と呼ばれる謎の物体の受け渡しが行われることも合わせて明らかになった。私はこれらの情報を掴み、是非とも秘密会合に参加して組織の内部事情を探ろうと考えたのである。「ヤキソバ会」は地下組織ゆえ接触は困難を極めたのだが、しかし数々の裏工作の末、ついに会合の主催者と思しき人物とのコンタクトに成功し、新規加入希望信者を装って単身秘密会合に潜入することが出来たのである。本書は地下組織「ヤキソバ会」の秘密裏に行われた会合の内容及び、幸運にも入手することが出来た「ヤキソバ弁当」の詳細について報告するものである。

2.地下組織「ヤキソバ会」

「ヤキソバ会」を語る前に、「カレー教」と「牛丼教」の長きに渡る戦いの歴史を記しておかなければならないだろう。すでにご存知の通り、「カレー教」と「牛丼教」はそれぞれの御本尊たる「カレー」と「牛丼」を、世界中の人間に食べさせようという目的を持った宗教団体である。各々の組織がまだあくまでも地下組織だった時代、つまり世間に対する影響力がさほでもなかった頃は、両者はお互い反目するにしろ直接的な武力対決にまでは至らなかったのだが、双方ともに巧みな広告活動その他により獲得信者数が指数関数的に増加し、それに伴う資金力に物を言わせ、整備増強した武力集団による破壊活動が堰を切ったように開始されたのである。その後、世界征服の覇権を巡り正に血で血を洗う武力衝突が世界各地で勃発してきたのだった。両者の宗派が標榜する目的のベクトルが、不幸にして一致していたための悲劇といえるだろう。攻防は一進一退を繰り返し、辛酸をなめ尽くすような激しい争いが長く続いた結果、夥しい犠牲者の山が日に日にうずたかく積もれていくばかりであった。長い戦いによって疲弊しきった双方の指導者達はついに歩み寄り、1999年初頭、スイスはモントルー湖畔にて歴史的な和平条約が交わされたのである。

そうした「カレー教」と「牛丼教」の覇権争いが収束の方向に向かった裏で、急速に力をつけつつあるのが地下組織「ヤキソバ会」である。「ヤキソバを世界中の人間に食べさせる」という「ヤキソバ会」の教義・目的は先の二団体と同様であり、それ自体はさほど新規性はないように見えるのだが、しかし「カレー教」と「牛丼教」はともにご飯物であって、「ヤキソバ」は麺類であるというところに目新しさがあるものと思われる。事実、ご飯の味に飽きた双方の信者が大挙して「ヤキソバ会」に趣旨替えしているとの情報もあり、信者数は加速度的に増加の一途を辿っているようだ。

このように急激な信者数増加を見せる「ヤキソバ会」は、新たな世界征服を目指し近年不穏な動きを見せつつある。今のところ同じような動きをする団体は他に見当たらないが、「カレー教」及び「牛丼教」勢力が落ち着きを見せている今、その隙を狙って同時多発的に「ヤキソバ会」の相似組織が乱立し、覇権を巡って再び戦火が世界を覆わないとも限らない。そこでまず地下組織としては最大勢力である「ヤキソバ会」の動向を厳重に監視し、各種情報を掴んでおくことは、今後の世界治安維持に大変重要であると考える。その手始めとしてこの秘密会合に参加し、彼らの内部事情を調査することを今回の諜報活動の目的とする。

なお、「ヤキソバ会」の下部団体として「お好み焼き会」、「タコヤキ会」、「タイヤキ会」、「わたあめ会」さらに「リンゴ飴会」なる組織が存在するとの情報もあるが、その真偽については目下調査中である。

3.会合について

数ヶ月前より「ヤキソバ会」について調査していた私は、近々秘密会合が行なわれることを別件のたれ込み情報から掴んだ。さらに調査を進め、コードネーム「ブラックパンサー」なる人物が今回の会合の主催者であることを突き止めたのである。その方法については本書の内容とは無関係なので詳細は省略するが、私が通じているあるルートを使用して「ブラックパンサー」のメールアドレスの割り出しに成功し、教団への新規加入希望者を装って会合への参加希望を旨とするメールを送ってみたところ、ほどなくして参加許可の返事を得ることが出来た。その後「ブラックパンサー」と幾度かのメール交換をした末に、会合が7月某日、都内某所にて行なわれることを明らかにしたのである。

会合当日、指定された集合場所はとあるターミナル駅前のデパート入り口であった。その日は近くの河川敷にて花火大会が開催されるとのことで、付近は花火見物客と思われる人々でごった返していた。秘密会合という性格上、本来は出来るだけ人目につきにくい場所に集合するのが常套手段だと思えるのだが、こうして人ごみに紛れることで街に同化し、逆に人心から逃れようという作戦なのだろうか。なかなか細かい配慮である。

集合時間に集まったのは私を含めて5人。当所は全員で7人が集まるとのことだったが、そのうち二人は後ほど遅れてやってくるとの説明を受けた。ともかく私は先導されるままに、駅から歩いて数分の繁華街から一本はずれた場所にひっそりと佇む居酒屋へと連れ込まれていったのである。この居酒屋は外見上は一見何の変哲も無く、どこの街にも有りそうなごくありふれた店構えなのだが、主催者の「ブラックパンサー」と店員がいかにも顔見知りという様子でボソボソと何かを話しているところ見ると、恐らくここは「ヤキソバ会」秘密会合で頻繁に使用されているアジトと見て間違いないであろう。店に入っていきなり、他の客が誰もいない二階席に通されたのが何よりの証拠だ。

ところで今回の秘密会合に出席した者のうち、新規加入希望者として参加しているのは私一人のみで、他は全て「ヤキソバ会」信者であった。これは実に意外である。事前の予想としては、何人かの加入希望者をセミナー方式で一堂に集め、そこで集団心理を利用して一気に多数の信者を獲得するものだと考えていたのだが、「ヤキソバ会」のやり方は一人の希望者に対して数の上で圧倒しつつ、口八丁手八丁で丸め込めて無理矢理洗脳するという作戦をとるようだ。もっともただ単に今回はたまたま私一人だったというだけなのかもしれないが、勧誘方式に関して今回のレポートは何かの参考になるだろう。また、会合では全員がアメリカの極右集団「KKK」が使用している物と同様の、目の部分だけがくり抜かれた麻布を頭から被るスタイルで行われる。各々の顔が見えないのはかなり不気味だが、逆にこちらの表情をうかがわれないので好都合ではある。

さて会合のスタートだ。まずは主催者の「ブラックパンサー」によって開催宣言が読み上げられ、つぎに「ヤキソバとともにあらんことを!」とシュプレヒ・コールを全員で繰り返す。その後、店員によって運ばれてきた山盛りのヤキソバ(ソース、具、麺の種類が微妙に違うもの数種類)を食しつつ、各信者による今月の新規信者獲得数、食したヤキソバの総重量、ヤキソバを炒める時に使用する特殊ヘラ棒の製作本数などの各種報告がなされ、続いてヤキソバにマヨネーズを混入させることの是非、デフォルトとすべきソースの種類、青海苔と紅生姜の存在意義などが議題に上り、途中から参加した二人を含め、信者間で激しい討論が展開されていた。その間、いったいいつになったら私を「ヤキソバ会」に勧誘するのかと疑問に思いながら彼らの議論を傍観していたが、ついに私に彼らの関心が向くことはなく、新規加入者獲得実績の成績優秀者に対する例の「ヤキソバ弁当」授与式が執り行われた後、約4時間半に渡る会合は終了した。終了間際に「ブラックパンサー」から何故か私にも「ヤキソバ弁当」が唐突に手渡され、今まで長い間謎とされてきたこの物体を労せずして入手することが出来たのは、今回の極秘潜入での意外なる成果だった。

解散時、被っていた麻布を取り去り、再び全員で冒頭のシュプレヒ・コールを繰り返す信者達。歯にこびりついた青海苔をものともせずに「ヤキソバ会」のスローガンを叫び続ける彼らの陶酔しきった顔を見るにつけ、マインドコントロールの恐ろしさを思わずにはいられない。

以上のように秘密会合自体は滞りなく終了し、「ヤキソバ会」の活動内容に関する貴重な情報を得ることが出来たのだが、しかし新規加入希望者たる私に対して彼らが何のアクションも起こさなかったのはかなり不自然に思える。一般的にこの手の団体のセミナーと称する会合では、参加者に対して洗脳や脅迫ともとれる強制的かつ非合法的な勧誘方法がとられるものだが、そうした方法は彼らの教義には沿わないやり方なのだろうか。あくまでも自主的な加入が基本とでもいうのか。武闘派でならす「ヤキソバ会」にしては、この点は大きな疑問である。


紙面の都合上とりあえず第一報はここまでとし、参加信者に関する情報及び入手した「ヤキソバ弁当」に関しての報告などは、続く「ヤキソバ会秘密会合潜入報告(第二報)」を参照されたい。





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