みくだり日記    2000年03月後半
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03月31日(金)
  三月も終わりである。一般的な企業や官公庁では今日で年度が切り替わり、明日から新しい年がやってくる。言ってみれば今日は社会的な大晦日というところか。年度切り替えに付随するややこしい追っ付け仕事や諸々の雑事から今日で解放されて、ほっとしている人も多いのだろう。しかし俺の場合、そういった年度末だからどうこうとか、決算がどうのやら季節がどうしたということとは無縁の仕事に就いている。だから今日は単なる三月が終了する日。年度の大晦日だからといって、仕事上特にこれといって区切りもなにもないわけである。
  そんな俺でも三月の終わりと聞けば、なにかこうほのかな切なさというか寂しさというか、小さな胸が締め付けられるような、そんな感慨がわいてくるような気がするのである。卒業、就職、異動、引越し。ステレオタイプでありきたりに連想される言葉だけど、この季節に過去に通ってきた道を思い出さずにはいられない。ええ、わかってますって。柄じゃないっすね。こんなこと言うの。

  そんなことよりさあ、動かねえんだよぅ黄さん。あんたの作った回路。頼むぜ、新年度はさ。

  ついにプロ野球セントラルリーグの開幕である。開幕ゲームをホームで迎える栄誉にあずかるためには、前年にAクラス(上位三位)入りしていなければならないのだが、我が横浜ベイスターズは今年で三年連続横浜スタジアムにてペナントレースのスタートを切ることができた。かつて「万年Bクラス」だの「横浜大洋銀行」だの、言うに事欠いて「セ・リーグのお荷物」だの揶揄されていたのが嘘のようである。強くなったなベイスターズ。バックスクリーン最上部に掲げられた球団旗が、溢れる涙で見ることができない。

  で、開幕ゲームである。相手は昨年最下位の阪神タイガース。いきなり初回に怒涛の六連打で一挙五点を奪う猛攻。こりゃあ今日は楽勝か?と思いきや、六回に横浜先発の川村が突如乱れて逆転される体たらく。その裏に同点に追いつくも、そこから膠着状態に陥り延長戦へ。結局十一回裏に進藤のサヨナラヒットで勝ちはしたものの、やっとこ勝ったといったところか。

  それにしても、初回五点→一気に逆転される→同点に追いつく→延長戦突入→十一回裏にサヨナラ って、メチャクチャというかなんというか。それがまたいいんですがね。見ていて疲れるけど。


03月30日(木)
  あと一日で三月も終わりだ。今日はここ数日吹き荒れた強風が止み、昼間はポカポカと暖かかった。今朝家を出るときに、さすがに今日はブルゾンを止めて綿シャツ一枚にでもしようかと思ったが、しかし昼間は暖かいとしても夜はまだまだ冷えることを思い出してとどまった。
  しかし冷え込むといっても真冬のように身を切るような冷たさということは、もうない。吐く息は白いものの、これは外気温と息の気温差というより大気の湿度によるものだろう。キリキリに乾燥していた冬場と違い、大気はかなりの湿り気を内包しているのである。

  仕事を終えて、少し急ぎ足で会社の駐車場へ歩く。つい一ヶ月前とくらべると明らかに変化した大気の水蒸気含有度を証明するかのごとく吐く息も白く霞む。空を見上げると、北斗七星がちょうど天頂付近に鎮座ましましている。ひしゃくの柄のカーブをそのまま南に辿ると牛飼い座のアルクトゥールス、さらに南へ下ればおとめ座のスピカが青白く瞬く。この星は太陽の数十倍の直径を持つ巨大な恒星であるが、しかし誕生してからまだ百万年程度と、宇宙的スケールからすれば生まれたばかりの赤ちゃん星である。だがその大きさゆえに、星の内部では猛烈な勢いで核融合反応が進みつつある。星を燃やす燃料のヘリウムが毎秒何十億トンという途方もないスピードでより重い物質へ変化し、そしてやがて自らの重みに堪えかねて重力崩壊という死を迎える。大きな星ほど、そのサイクルが短い宿命を背負う。そんな誕生間もないというのにあっという間に燃え尽きる運命を定められている星。それがスピカである。

  そうした激しい素性をもつスピカの光は、春の霞んだ大気というフィルタを通すと、本来のぎらぎらとした青白い炎の色からほんの少しだけ弱められる。そこがまた物腰柔らかく、何と言うか、微かに香水の匂いがしてきそうな、そんな女性的な色。この星が空の真上にやってくると、やっと春が来たか、と毎年思うのである。


03月29日(水)
  嵐のように風が吹き荒れた昨晩からうってかわり、今朝は爽やかな快晴。風はまだちょっと強いものの、ほわっと温かいまったりとした空気の感触は、春先特有の気候感だ。いやあ、今日はずいぶん暖かいな、と思い車の外気温計をみると 17.5℃。午前九時半現在で、である。気温だけならすでに春を通り越して初夏ですなあ。

  川崎球場をご存知だろうか。古くは大洋ホエールズ(現横浜ベイスターズ)がホームグラウンドとして、その後ホエールズが横浜に移動してからはロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテ・マリーンズ)が本拠地として使用していた球場である。ロッテが千葉に移動してからは社会人や大学野球で使われていたが、老朽化が激しいということでついに今年もうまもなく取り壊されることになった。

  この球場で野球を見たのはいつだったか。親父に連れられて大洋戦を見に行ったのは、確かまだ小学生低学年の頃だと思う。当時読売ファンだった俺は大洋になぞほとんど興味はなかったのだが、生でプロ野球を見られるということにずいぶんと興奮したのをおぼえている。なにせそれが生まれてはじめての野球観戦だったからだ。

  大洋ホエールズが横浜にやってきからは、もっぱら野球と言えば横浜スタジアムで、初観戦後何度か訪れた川崎球場からはすっかり足が遠のいてしまった。しかしその後、学生時代に知り合いの熱狂的なロッテファンにつきあって一度だけロッテ戦を見に行ったことがあった。久々にやって来た川崎球場は、小奇麗で清潔な横浜スタジアムになれた身には、軽いカルチャーショックをおぼえるに十分だった。手書きの板をパタパタとひっくり返す昔懐かしいスコアボード、球場の設備もボロく、ライトフェンスなんて一部壊れて抉れているのにお構いなし。グラウンドを照らす照明もところどころ切れていたりして。「本当にここがプロチームの球場か?」と思うほどのすごさであった。

  確かライト側(ロッテ側)の外野席に座ったと思うのだが、当時からロッテファンの応援には独特の熱気があった。チャンスになると半分朽ちかけた椅子の上に立ちあがって球団旗を振り回す応援団の横で、花月園(競輪場)帰りと思われる一升瓶片手に飲んだくれて死んだように寝こんでいるおっさんがいたりして、「ああ、ここはやっぱり川崎だな」と妙なところで納得したりして。スマートな横浜もいいが、それとは一味違うこの川崎球場の寂れた雰囲気がまたなんとも言えない良さがあるというか、川崎というちょっと怪しい空気が漂う街に微妙にマッチしていたような気がする。

  二月のさよならイベントや、先日行われたベイスターズ対マリーンズの最後の試合には多くのファンが訪れほぼ満員状態だったとも。でもやっぱり川崎球場は、ガラガラだからこそ川崎球場なのである。


03月28日(火)
  昼頃から降り出した雨は、一時結構な勢いで降っていたが、夜半からだいぶ小康状態となっている。そのかわり今はまるで台風並の強風が吹き荒れている。四国ではこの風でかなり被害が出たようだ。これが春の嵐ってやつか。風は吹いたか、桜はまだかいな。そんな呑気なもんじゃないか。

  昨日授賞式が行われた今年のアカデミー賞では、視覚効果賞で「Matrix」が選ばれた。昨年の映画で特殊映像のもう一方の雄と言えば「StarWars Episode1」だが、こちらは前評判の割りに興行成績がちょっとばかりぱっとしなかったからか、全く立つ瀬なしだったそうである。コンピュータグラフィックス(CG)全開バリバリの「Episode1」は確かにもの凄い技術を使っているのはわかるものの、あれほどのCGでも既に別段驚くに値しない当たり前の手法になったということなんだろうか。

  対して「Matrix」はどちらかというとCGは控えめで(それでも十分に使われているが)、むしろ古典的なフレームワークの発展や、「ブリットショット」に代表されるフィルム撮影技術そのものの進化に重きをおいている。その「Matrix」が評価され賞を取ったというところに、猫も杓子もCG流行りのこのご時世、何か意義深いものがあるような気がするのだ。作り物に頼らなくても、まだまだ出来ることはいっぱいあるってことか。まあ単純に「Matrix」が目新しかっただけ、というのもあるかもしれないけど。

  でも映画本来の「出来」は、個人的には「Matrix」よりも「Episode1」の方が面白かったと思うんだよなあ。そういえば「Episode1」のビデオはもうすぐ発売だが、DVD版っていつ出るんだろう。


03月27日(月)
  別に月曜日に限ったことではないけれど、それでもやはりいつもながら月曜の朝は眠い。それにしても花粉飛散量は今日も多い。くしゃみ止まらず。

  PlayStation2も買ったことだし、いつかは見ようと思っていた「Matrix」。とりあえず買うまでもないのでそのうちレンタルでもするかと思っていたら、ひょんなことから会社の人に借りることができ、今更ながらこの週末に鑑賞。
  すでに去年の映画だから、評判に関しては事あるごとに散々見聞きしていたが、しかしその評判通り、CGや特殊撮影のハイテク技術が融合した映像の美しさは素晴らしい。漆黒に沈む夜の街からのオープニングで、しなやかな筋肉で疾走するトリニティ。まるで闇の中を徘徊する獣のようなの強さと美しさに、まず引き寄せられる。このトリニティを演じるキャリー・アン・モスのクールなアクションと、体に密着した黒の衣装が実にいい。痩せぎすではなく、かといって筋肉の塊でもないし、もちろんダイナマイトバディではない。しかしこの鍛え上げられた筋肉の上に極薄くマシュマロを詰めたような、どこか柔らかさを匂わせる曲線を描く体のラインが、悩ましいほどに官能的である。ついでに言うと、この人のちょっと眠たげな目。これがまた実にたまらないのだよ。ええ。

  ま、それはともかくとして、映像はとにかく凄いの一言である。マトリックスに戦いを挑む人間達の住処のゴシックな内装。彼らの「船」やマトリックス側のイカ型戦闘機の有機的な造形美。真実を直視しようとしたネオがガラスを触ると、ガラスが粘液のように銀色に広がり彼の体を覆おうとするなどの独特の特撮効果。この映画のテレビCMなどでおなじみとなった、停止した被写体のまわりをカメラがぐるっと回っているかのような「ブリットショット」と呼ばれる斬新な撮影技法。さらに随所で補完的な役割で使用されているCG。これら映像効果と、オルタナティヴかつハードコアな音響・効果音とがあいまって、サイバーパンクな暗黒の美とでもいうべき世界観が見事に表現されている。

  こうした映像の魔力と対極の位置にあるようで、実は密接に絡んでいるのが華麗なアクションである。香港映画界からカンフーの振付師を招いて、主演のキアヌ・リーブスやキャリー・アン・モス達役者は数ヶ月もの特訓をさせられたそうだ。その甲斐あってか、ワイヤーを使った空中アクションや実際の格闘シーンは、全てスタントを使わずに俳優自ら演じたそうだから凄い。あの動きがCGではなく全て生身の人間が演じているというから驚異的である。しかしこうしたシーンを安直にCGに頼らずに人間が本当に演じてみせたからこそ、特殊撮影シーンとの対比でまたなんとも人間臭いライヴ感が生まれ、逆に特殊撮影部分に非常なリアリティを醸し出させることに成功しているように思う。

  ということで映像に関しては全く文句の付け所がないほど素晴らしいのだが、しかし肝心の筋書きはというと、「現実だと信じていた世界が、実は仮想的に創造された空間だった」という、これがまたありがちなテーマでちょいと食傷気味。こうしたアイデアはすでに古典SFと呼んでも差し支えないプロットであり、すでに小説でも映画でも散々描かれてきたことで、何を今更御大層に、という感はある。コンピュータが人間を支配し、それに対抗すべく立ちあがるレジスタンスという対立構造も、一応説明はあるにはあるが今一つはっきりしないし、しかもラストまでいっても物語が全然終わっていないのは、一本の映画としてちょっとどうかと思う。そのあたりは今後制作されるという二作目、三作目で明らかになるのだろうけどね。

  そんなわけでシナリオ的にはちょっと難あり感は否めないものの、映像・アクション物として十ニ分に楽しめた映画ではありました。言うなれば頭を空っぽにして、ちょっと気だるい日曜日の午後に見るのが最適な一本、というところか。もちろんこれ、誉めてるんですよ。


03月26日(日)
  朝九時半起床。今日は昨日から泊まりで遊びに来ているくにおん&ゆきこさんの新婚(と言っていいんだろうか)カップルに加え、かみさんのバリ仲間であるみーちゃんさん夫妻が昼頃合流することになっているのである。そういうことで早起きというわけだ。日曜日の朝にこんな早い時間に起きたのは何ヶ月ぶりだろう。朝日が無性に眩しい。

  昼前にみーちゃんさん夫妻が到着し、さっそく昼食会である。メニューはベトナム風スープ麺とライスペーパーを使った生春巻き、ナシゴレンなどなどと、我が家に誰かが来たときの定番となったエスニック系てんこ盛りな品々。昨日ららぽーとで購入していた大量の骨付きカルビや牛テールは一体どんな料理になるのかさっぱりわからなかったが、ベトナム風スープ麺のスープだったのか。さすがに昨晩三時間ほどじっくり煮こんだだけあって、なかなか良い出汁が出ている。

  ちなみに今日の参加者で、バリ島未経験者は俺とくにおんさんだけ。うちのかみさんを含めてその他の人たちは、皆一度ならず渡バリしているのである。そんな俺だが、この秋に予定されているくにおん&ゆきこさんの結婚おめでとう旅行(と言っていいんだろうか)に俺達夫婦も便乗して同行させてもらうこととなっているのだが、どうやらその行き先がバリ島になりそうなのである。実のところ今までバリ島にはそれほど興味はなかったのだが、そんなこともあってかみさんが日頃お世話になっているここここをちらちらと眺めているうちに、最近バリもなかなかいいかも、と思い始めていたりする。ハマる人はとことんハマると言われるバリ島。南の島の神々は、俺にも微笑んでくれるのだろうか。

  ところでみーちゃんさんの旦那さんの髪型を見て、石渡治が昔書いた漫画「B.B.」を思い出したのは俺だけっすか。ツンツン。


03月25日(土)
  今日も今日とて休日出勤。数えてみると、今月休んだのはこれまでで三日である。三日しかというべきか、三日も、というべきか。おかげで休日出勤を含めた今月の総残業時間は結構なことになっている。たしか先週の末の時点で百時間を超えていたような気がする。このペースであと一週間、今月が終わる頃にはいったいどれぐらいになるだろうか。ううむ、人事部から文句が来なければいいんだが。文句が来ても貰うものは貰うけど。

  ここ数ヶ月かかりきりだったカスタムICチップの設計が、ようやく内部回路の設計段階を終えて実チップによる論理動作検証のフェーズに入りつつある。もちろん設計段階でもシミュレーションによる動作検証は行っているのだが、それはあくまでコンピュータ上の仮想現実の話。シミュレーションは現実世界に限りなく近づけるべく、様々な条件設定を入力した上で検証しているわけだけど、その条件が百パーセント完璧なものかというともちろん違うし、そもそも設計段階で論理回路の動作仕様を取り違えていたりする場合もあって、したがってカスタムICチップを量産する前には、現実世界による動作検証がどうしても欠かせないのである。
  そういうとこで今日はひたすらオシロスコープとにらめっこ。設計した論理回路を焼きこんだ動作検証用ICにいろいろな条件設定を加えていき、その都度一つ一つの動作をオシロスコープで信号を観測して確かめる。

  ところがどうしても設計通りに動かない部分があるのである。あれこれこねくり回してみても、どうやっても論理通りに動作しない。おかしい。何故動かないのか。理由はまったくわからないが、どうもこれは俺が設計したところではなく、外注にアウトソーシング(設計外部委託)したブロックがヘンテコな動作をしているらしい。あれこれ考えても埒があかないので、設計担当の中国系アメリカ人エンジニア黄さん(1999年12月8日付け日記参照)に電話してみた(黄さんも休日出勤しているのだ)。
  相変わらず流暢な日本語を操る黄さんと、電話口であーでもないこーでもないと議論しているうちに、どうも俺が設計したブロックと黄さんのブロックとを結合させるときに、黄さんが自分の担当したあるブロックを入れ忘れてしまったらしいことが判明。それまで綺麗な日本語で喋っていたのに、ミスがわかった途端に「ああ、あいやー、そうだったあるか」って突然謎の中国人風にならないように。頼んますぜ、黄さん。

  今日はゆきこさんとくにおんさんが泊まりで我が家に遊びに来るのだ。なので夕方に早めに仕事を切り上げて、まずはゆきこさんとかみさんと合流する為に車で船橋ららぽーとへ。食材やら酒やらをしこたま買い込み、ららぽーと内のトンカツ屋で晩飯を食した後に帰宅。夜にはくにおんさんも仕事から合流し、ゆきこさんが持ってきてくれた「幻の焼酎」なる宮崎産麦焼酎を飲みながら朝方の三時ごろまであれこれ喋ったり。香港行きは五月で決定である。休めるんだろうか。


03月24日(金)
  日毎に暖かくなるにつれ、それに比例するように空気中の花粉量も数を増しているようだ。昨日今日の雨で流されて少しはマシになるかと思ったが、さにあらず。凶悪なる花粉のくそったれ野郎どもは、今日いちだんと勢力を強めたと思われる。おかげで一日クシャミが止まらず、おまけに朝から頭もボーっとして今一つ集中力が持続しない。
  車通勤ということもあり、眠くなるとまずいので薬の類は全然服用していないのだが、これも花粉の仕業か、昼過ぎからは強烈な眠気に襲われる。遠くなる意識。ぼやける視界。い、いかん。今、俺は眠るわけにはいかんのだ。今日中にこの回路を設計しなおして動作検証まで終わらせないとえらいことになるのだ。ああ、でも眠い。しかし眠れん。やっぱりねむねむ。おやすみすぴー。

  ふらふらと席を立ち、眠気覚ましにコーヒーを入れる。ちょっと濃い目にしようといつもより多めのコーヒー粉をスプーンですくったら、これも花粉の影響か、手元が狂ってドバっとカップに入ってしまった。こうしてなんでも花粉のせいにするのはどうかと思うが、それはともかく、目分量でカップ三分の一。誰がどう見てもコーヒー粉を入れすぎたカップが目前に存在する事実は、厳然として覆しようもない。中学の理科の実験で、ビーカーの中でマグネシウム粉末を燃やして遊んだ記憶がふとよみがえる。ファイヤー。
  しかしいまさら余ったコーヒー粉を瓶に戻すのも面倒くさい。ええい、ままよ。ドボドボとお湯を注いでスプーンで無理やり掻き回してみる。が、カップ奥底にたまったコーヒー紛は、ヘドロのように厚く堆積して一向にとける様子がない。色も変だ。まるで墨汁のようにドス黒い。正にブラックコーヒーである。ううむ、こんなもの飲めるのだろうか。しかし大量にコーヒー粉を使ってしまった手前、このまま捨てるのには忍びない。
  飲めるか飲めないか、とにかく口をつけてみないことには分かりようもない。とりあえず一口だけでも飲んでみようではないか。意を決し、思いきってカップから口中に墨汁状液体を流し込んでみる。ぶほげほ。い、いくらなんでもちょっと濃すぎたか。苦いとかきついとかではなく、痛いと言った方がより正確かもしれないなこのコーヒーは。食道が焼けつきそうである。突然流れ込んできたあんまりな濃さの液体に驚き、胃が攣縮しているのが自分でよくわかる。いや、これでいいのだ。たしかに味は相当きついが、しかしこの大量のカフェインが、俺を黄泉の世界から引き起こしてくれるのだ。飲め。飲むんだ俺。よし。ごくごく。うぐぐ。きつい。こんなことで負けてどうする俺。さらに飲む。ごくごく。なんだか何かの罰ゲームのようである。ごくごく。ああしかし、この匂い、というか猛烈なコーヒーの「臭い」が、鼻を、鼻を刺激して。い、いかん。いかーん。

  ハクション大魔王もかくや、という大音響とともに、かつてコーヒーと呼ばれた大量の黒い液体を鼻から口から放出したのは、これから約二秒後のことであった。


03月23日(木)
  湿気で髪がとぐろをまく春雨の季節がやってくる前に、いいかげんうざったくなった髪の毛を先週末のうちに切ろうと思っていたのだ。しかし土曜日は起きたら昼過ぎ。気力がついて来ず断念。そして日曜日は休日出勤。仕事をした後になんかさらに床屋に行く気力なし。もう面倒くさいからいっそこのまま伸ばし続けてみようかとふと思ったりもした。だが春の雨の湿気を思う存分吸いまくった挙句、巨大なカーリーヘアとなった自分の頭を想像し、結局月曜日、春分の日に絶対に床屋に行こうと心に決めた俺であった。
  しかしもちろんこの日も休日出勤。仕事をした後ではまたも気力が失せてしまい、今日も行かない可能性が多分にある。ということで夕方適当なところで仕事を切り上げ、近所の行きつけの床屋へと向かったのである。

  床屋の前まで到着。これでようやくとぐろ頭とおさらばである。これでカーリーヘアにならんでも済む。どうせきるなら今日は思いきって短く刈りこんでもらうか。そうすりゃ当分床屋に来なくても済む。などと考えながら店のドアに手をかけると、そこには「本日臨時休業」の貼り紙が。どういうことだそれは。

  ということで、結局連休中には切ることができなかったが、昨日会社を早めに出てようやく髪の毛を切ることができた私だ。一時はいっそスポーツ刈りにでもしてみるかと無謀なことを考えもしたが、結局のところそれほど短くはしなかった。それでもようやくさっぱりである。なんというか、気分は雛鳥というか。下手にあくびでもしようものなら、すかさず親鳥が口の中に餌を突っ込むぐらい。さっぱりって言うのか、それ。


03月22日(水)
  相変わらず北風が強い。この風に乗って関東北部の山林からスギ花粉が大挙してやって来ているのだと思うと、風が吹く元凶となっている日本海に居座る移動性高気圧と太平洋側の低気圧のペアが大変恨めしい。お前らのせいで。お前らのせいでえぇっ。

  今朝出勤する途中で、頭には黒いニット帽、口にはマスク、そしてゴーグルと、対スギ花粉完全防備スタイルな人を見かけた。そうかそうか、今日も花粉はいっぱい飛んでるもんな。症状の重い人はこうしてちゃんと自衛しないとえらい目にあうからなあ、と口のマスクをよく見てぎょっとした。尖っている。ツンツンしている。ちょうど口元に当たる辺りが円錐形にとんがっているのである。なんなんだあれは。まるで熱帯雨林地方のジャングル奥深くにありがちな妙な鳥のくちばしか、はたまた大昔のステレオタイプな暴走族スタイルを彷彿とさせる。「クキーウキュキュキュピー」とか鳴きそうである。「仏恥義理!」とか凄まれそうである。
  というなかなか異様なスタイルであるが、そうした顔面部分とは裏腹に、首から下は普通のスーツ姿というのがこれまた不思議なミスマッチというかサイバーというか。子供の頃に学研だか子供の科学だったかで、近い将来公害による大気汚染で防毒マスクをしないと外を出歩けなくなるなんていうイラストが載っていて、子供心に大層恐ろしげに思ったものだが、それがまさか植物の花粉のおかげでその未来予想図が的中することになるとは。

  それにしてもマスクのあの尖った部分はいったいどういう意味があるのか。きっとそれなりの理由があってとんがっているのであろうが、まさかただのファッションじゃあるまいに。どういうファッションだか。


03月21日(火)
  先週の金曜日から伸ばし放題になっていた不精髭を剃る。

  俺の髭はかなり密度が低く、伸びてもただみすぼらしいだけで、どうにもワイルドさに著しく欠けることはいつぞやここでも書いたような気がする。で、確かに一般的な成人男子にくらべて髭密度が少ないことは事実でありこれは如何ともしがたいのだが、俺の髭には特徴的なところがもう一点あるのだ。それは顔の左右で密度と伸び方に偏りがあるということである。具体的にいうと、額から鼻筋を通って顎に抜けるラインをセンターとした場合、右側にくらべて顔面左側の方が明らかに「濃い」状態で、さらに密度もさることながら髭が伸びるスピードも左側の方が断然早い。つまり俺の顔を右側から左に向けてなぞっていくと、右耳下部から徐々に生え始めた髭がだんだんと密度濃くかつ長くなっていき、右鼻下から顎を抜け、そして左顎下辺りでピークを迎える様を観察することができる。この長さの不均衡と密度の偏りは一体どうしたことか。

  思うにこれは刺激の違いのような気がする。俺は髭を剃るのは電気ではない手動の髭剃り用いるシェーバー派なのだが、右利きなので髭を剃るときは当然ながらシェーバーを右手に持つ。すると顔の右側は右手から近い分どうしても手首を窮屈に曲げなければならず、あまり自由が利かないのである。いきおい上手く刃のエッジ部分を肌に当てることが出来ずに、どうしても剃り残しを生じてしまう。つまりは髭を甘やかしているのである。ダレきっているのである。
  それに対し顔の左側は、右手のフォワードの位置になるのできちんと力をこめて髭剃りすることが出来、並み居る髭を文字通り根絶やしにすることが出来る。髭も必死である。剃られちゃうのである。せっかく伸びた己が身を、綺麗さっぱり刈り取られてしまうのである。伸びなきゃならん。生やさなきゃならん。そう認識した毛母細胞は、髭の量産体制に入る。そうして必死な左側の髭は濃く長く、ダレた右側はあくまで現状維持を貫き、そして左右の髭密度不均衡を生んだのであろう。

  だからどうしたというか、どうでもいいと言えばどうでもいいことなのだが、俺の髭の左右アンバランスに関する発生機序について考察してみた私だ。次回は左右の鼻毛の長さの違いについて考えてみたい。続くのかこの話。


03月20日(月)
  今日も休日出勤。いいかげんこの書き出しも飽きた。でも事実なんだからしょうがない。

  それにしてももうずいぶんと暖かくなった。いつの間にか三月も下旬になって、桜の開花ももうすぐそこってぐらいだから暖かいのも道理だが、こうしてたまに昼間に外に出てみると、普段あまり出歩かない分急激な季節の移ろいに驚く。もっとも変化はきっと緩やかに進行しているのだろうが、連続ではなく断続的なディジタル量として季節変化をサンプリングしているので、季節から次の季節へと大きく変化する時の差分は思ったよりずっと大きいのである。
  しかしほんとうに今日は暖かだ。春先特有の強風が吹きさらされている時は体感温度的にはそれほどでもないが、風が止むほんの一瞬、ちょっと霞んだ空の先からやって来る太陽光線が、ほんのりと甘ったるい感触で身を撫でる。春うらら、ってやつですか。コートを捨てて街に出よう。その前に俺は会社で仕事ですねわかってますってば。

  Every Little Thing(ELT)からブレインの五十嵐充が脱退。ううむ、これからどうなるんだELT。


03月19日(日)
  本当は今日は休みにするはずだったが、昨日休んでしまったので出勤。さすがに三連休の中日は誰もいないかと思いきや、うちのフロアは結構な人数が出社していてちょっと驚いた。もちろん忙しいから仕方なく出ているわけなんだけど、しかしいいのかみんな。こんな連休のど真ん中に仕事を入れちゃったりして。奥さんや子供に文句を言われないのかと、他人事ながら心配になる。

  今朝見た夢は久々の荒唐無稽ものだった。
  何故か突然伊武雅刀が台湾に亡命し、しかも何を思ったか政界に進出する。あれよあれよというまに総選挙で総統に当選した後、軍部を掌握して台湾を軍事独裁国家として立ち上げる。そしてまずは中国に宣戦布告。当初は主に大陸本土でちらしていた戦火が、やがて朝鮮半島から黄海、東シナ海、そして日本海へと飛び火し、アジア全土に広がっていく。
  こうとなっては日本も指をくわえて黙っているわけにはいかず、ASEAN連合軍として参戦。多勢に無勢と数で圧倒する連合軍の前にジリジリと敗走するのみの台湾だったが、しかしその裏でPCの開発・製造で培った高度な半導体技術とメカトロニクスとを融合させ、重機動兵器(モビルスーツ)の開発と量産に成功し、実戦に投入する。旧来の戦闘機と艦隊による海からの攻撃を主としていた連合軍は、強大な火力と抜群の機動力を誇る台湾モビルスーツ部隊に為す術もなく壊滅させられ、一気に形成は逆転。
  だが日本だって科学技術なら台湾に負けないのだ。台湾モビルスーツに対抗すべく、独自の機動兵器の開発に着手する。そのメインCPUにはソニー・コンピュータ・エンタテインメントと東芝がPS2用に共同開発したEE(エモーション・エンジン)を搭載し、外装には日本のお家芸であるノートPCで用いた軽くてもろい(笑)マグネシウム合金。衝突安全基準をクリアしたモノコック型筐体で、万が一の撃墜時にも安心設計。コクピットにはスペースも重量もギリギリまで削減したスペクトラム拡散方式の超軽量携帯型通話装置を搭載。もちろんi-modeにも対応だ。
  こうした日本が世界に誇る家電産業技術の粋を結集して開発されたモビルスーツで、アジアの平和と秩序回復を目指すのだ。

  とまあ、なんだかもう昨日の台湾総選挙とここ最近見続けているガンダムの影響がそのままストレートに反映されたストーリーで、あまりにベタ過ぎる設定に我ながらちょっとどうかと思う。まだ舞台が突如として宇宙に飛ばないだけマシかもしれないが、せめてもう少しひねりの欲しいところである。それにしてもいくらなんでもそんなスペックじゃ弱すぎるぞ、日本製モビルスーツ。外装の素材にマグネシウム合金を採用した時点で「歩く棺おけ」決定だよ。しかし伊武雅刀が総統ってそりゃ宇宙戦艦ヤマトだって。

  疲れているのかもしれない。明日も出勤っすよ私。


03月18日(土)
  世間一般的には今日から三連休。例によって俺は今日も通常通りに起床して休日出勤する予定だったのだが、目が覚めたのは案の定というかなんというか、ここ最近の週末の生活パターンそのまま通りの時間であった。もう毎週のように書いているような気がするが、うーむ、なんとも良くない傾向だ。だいたいこんな遅くに起きだしたって一日が非常に短い。まあ普段が完全な寝不足状態だから、週末ぐらいこうして寝だめでもしないと体がもたないのではあるが。しかしそうは言ってもせめて昼ぐらいには起きたいものだ。
  そういうことで結局、今日は完全オフ。明日、明後日は出勤することだし、一日ぐらいいいだろう。休もう休もうそれがいい。

  さて、今日の日付は三月十八日。今日という日はどういう日なのだろうかと、ちょっと調べてみた。

    誕生花:アネモネ 真実の愛
    誕生石:ブラッド・ストーン(勇気・知性)
    今日生まれの有名人
                アメリゴ・ベスプツチ(1452・伊・探検家)
                マラルメ(1842・仏・詩人)
                リムスキー・コルサコフ(1844・ロシア・作曲家)
                ディーゼル(1858・独・技術者)
                奥田瑛二(1950・俳優)
                島崎俊郎(1955・タレント)
                豊川悦司(1962・俳優)
                洞口依子(1965・俳優)
                芳本美代子(1969・歌手)

    今日の歳時記:明治村開村記念日(1965年)
              人類初の宇宙遊泳に成功(1965年)

  そんな何の変哲もない早春の土曜日であるが、俺は今日でまた一つ齢を加えました。思えば遠くヘ来たもんだ。


03月17日(金)
  髪が伸びてきたのである。と言うか、もうすでに伸び切っている。とはいっても大昔のメタル野郎時代のように顎の下で髪の毛をちょうちょ結びできるほどに長いわけではない。頭のてっぺんの髪を逆立てて「44マグナム!(古)」と叫べるほどでもない。せいぜい前髪が目にかかり頭側部は耳が半分隠れ、後ろ髪は襟足にかかる程度である。しかしこれでもここ最近の俺的頭髪測量基準に照らし合わせるとかなりの長さである。
  しかしなにせ俺の髪は剛毛くせっ毛。しかも髪密度濃し。なので、きちんとすいて「軽く」してやらないと、下手に伸びてくると頭髪全体の形状が上下方向よりも横方向にどんどん膨らんでくるのだ。これが梅雨以降の湿り気たっぷりの頃になるとそれはもう大変なことになる。制御不能である。頭部大暴走状態である。

  今は季節が冬で空気が乾燥しているからまだ幾分マシなものの、それでもこう伸びてくるともはや手に負えなくなってくるのだ。今日なんか朝起きて鏡を見たら、首から上がカリフラワーになっていた。でっかいカリフラワー。これはこれで新しいモードかもしれない。
  床屋行こうっと。


03月16日(木)
  朝から冷たい雨。雨が降れば花粉の飛散量も少なくなるように思われるが、どうして今日の俺の鼻腔深部にある花粉センサ感度は、今シーズン最高値を記録した模様だ。おかげで一日中くしゃみが散発し、ひたすら鼻から噴出し続ける体液。なんだか花粉症じゃなくて単なる風邪のような気もしてきた。

  オープン戦たけなわなプロ野球。これまでのところ、我が横浜ベイスターズは概ね順調な仕上がりであると言えよう。ただしベイスターズの看板であるマシンガン打線が若干しめりがちではある(特に鈴木尚典とローズの主力が)。だが元々地力のあるバッターが揃っているので、開幕までにはきっちりと調整してくるだろうから特に心配はしていない。
  期待の投手陣も横山が故障で別メニューとなった他は、斎藤隆、川村、小宮山、野村、三浦の先発陣は揃って順調。さらに今年は福盛の調子が良さそうで、先発ローテーションとして合わせて六枚のカードを回せそうだ。これに島田、五十嵐、森中というそれなりの成績が見こめそうな中継ぎ、佐々木がいなくなった抑えの穴を埋めるべく矢野、ペタンコートの二人がかり体制のストッパーと継投して行けそうである。先発、中継ぎが崩れてゲームの組み立てがろくに出来なかった昨年と比べれば、かなりの安定度が期待できる。絵に描いた餅にならなければいいが。
  で、ちょっと気が早いが、今までのオープン戦の結果から、今年の順位予想はこんな感じ。

  1.読売
  2.横浜
  3.中日
  4.ヤクルト
  5.広島
  6.阪神

  昨年のAグループ、Bグループ内でちょっと順位を入れ替えただけで何の芸も意外性もない予想でちょっとアレではあるが、しかしやはり上位三チームと下位三チームとではそれなりの溝があるような気がするのである。まあ読売の優勝確率は三十パーセント程度で、上位四チームまでが優勝する目は十分にあるとは思うけれど、ほぼこれに近いところに落ち着くのではないかと見ている。
  そうは言っても勝負は水物。蓋を開けてみなければわかるものではない。もしかしたら突如として打線が大爆発して阪神優勝!なんてこともあるかもしれない。ええ、多分ないです。

  肝心の横浜だが、今年も大量得点差からの大逆転が何回か見られればそれで十分である。「優勝」なんて、そんな、無理して狙わなくってもいいです。ほんとに。


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